劇場公開日 2016年4月29日

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「語ることで描ければ…」追憶の森 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0語ることで描ければ…

2016年5月23日
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鑑賞方法:映画館

知的

自ら命を絶つと決めたアメリカ人のアーサーが富士の樹海でタクミという人物に出会う。自殺の地として知られる樹海を美しく映し出し、その中を彷徨いながらアーサーのそれまでの経緯が語られていく…

物語自体は悪くない。所々に散りばめられた伏線もきちんと回収し、良いところに物語を着地させている。しかし、何故だろうか?この作品から自殺を決めた者の覚悟、或いは自殺するということに対しての躊躇いが伝わってこない。

自殺は生きている者にしかできない行為である。裏を返せば、強い“生”が描かれてこそ、“死”の描写が強調されるのである。だが、この作品は主人公が自殺を決意するまでの経緯の大部分をネガティブなトピックで綴っている。時に唐突な展開も起こるが、回想部分を映像で表現している為に過剰に不幸を演出しているように思えてしまう。

アーサーとタクミが暖をとりながら、自身の過去を語るシーンは本作のハイライトだ。彼の妻への不器用な愛が伝わってくる。ある意味で唯一ポジティブなシーンと言っても良いが、ここに回想シーンはない。つまり、ネガティブなトピックは映像で見せるが、ポジティブなトピックは語るだけという描き方がアンバランスさを生じさせてしまってるのだ。故に、圧倒的に“生”の面が弱くなってしまい、アーサーの“生きたい、でも生きていけない”という感情を汲み取ることができないのである。

ナオミ・ワッツはアーサーの妻役を好演したが、マシュー・マコノヒーも渡辺謙の演技力に長けている俳優である。それならば、二人の会話を通じて妻の存在を浮き彫りにした方が、より観客の琴線に触れる作品に仕上がったように思えて仕方がない。

Ao-aO