劇場公開日 2016年6月4日

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「見た目は立派だけど編み方は随分粗い籠」探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5見た目は立派だけど編み方は随分粗い籠

2016年6月5日
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鑑賞方法:映画館

知的

とある一家3人を襲った猟奇殺人事件、
海岸に流れ着いた6つの身元不明死体、
漁師が語る海竜の目撃情報、江戸時代の文献に
記された『星籠(せいろう)』という謎の文字……
数々の難事件を解決してきたという脳科学者と、彼の活躍を追う雑誌記者のコンビが、
一見バラバラに見えるそれら事件の真相を紐解くというミステリー作。

探偵御手洗潔シリーズはこれまでに28作が刊行された、
累計発行部数550万部超の大ヒットシリーズらしい。
……“らしい”と書くからには、まあね、原作未読です。
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玉木宏の理性的かつ飄々とした感じは天才肌な探偵役にはピッタリだし、
奇怪な事件を大喜びで追い掛ける猪突猛進ガールな広瀬アリスも可愛く魅力的。
冒頭、ホームズばりの観察眼を見せる冷静なミタライとハイテンションな小川のコンビに
「これ、面白いコンビものになるかも」と期待が高まった。
のだけどねえ……。
最終的な印象としては、
二人のどちらも事件を解説するだけの役割に終始してしまい、
このコンビの面白さは際立たなかったと感じた。

まずミタライさんは頭は切れるし冷静だし人道的で最
良の選択もする。
けどさ、ミステリーの主人公って、やっぱり完璧過ぎてもつまらんのよ。
コロンボ、金田一耕助、杉下右京みたく、ちょっと抜けてる所が欲しかった。
探偵と助手、お互いがお互いに影響を与えるようなシーンも無いしね。
せっかくコンビを組ませるならそこで化学反応を見せなきゃ物足りない。
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だけどそれ以上にこのミステリーがよろしくないのは、
事件の繋がりを追うことばかりに躍起になって、登場人物の
心情についての描き込みがおざなりになってしまっていること。

歴史ロマンと郷土愛と社会問題と猟奇殺人、それらが一本に繋がる
シナリオのアイデア自体はブッ飛んでて面白いと思うし、福山の港の
ブラタモリならぬブラタマキな知識についても“へぇ~”と興味津々だったが、
個人的にミステリーでいちばん大事だと思うのは、トリックやロジックよりも動機。
事件を引き起こした、あるいは事件に関わった人間の心理である。

あの人はあの人に利用されてどう感じたんだろう?とか、
あの人とあの人の過去の繋がりが弱過ぎて説得力が無いとか、
事件の真相をミタライと小川はどう受け止めたのか?とか、
登場人物どうしの心の繋がりをしっかり描けば
この物語はそれなりに感動的になったのかもしれないが、
作り手は詰め込み過ぎた事件のピースとピースを
繋ぎ合わせるのに手一杯で、心情描写に気が回っていない感じ。
お陰で最後の、故郷の海への想いに繋がる流れも取って付けたような印象に。

シナリオ上の不満についても言及しておく。
物語上で使い勝手が良いからって○○○○○の
人々ばかりを小悪党扱いするのもどうなんだ。
アレをやってる日本人だって大勢いるじゃん。
黒幕がその場の思い付きでやったというアレも、
咄嗟にあんな大それた事しようなんて考え付く?
それにいちばん突拍子もない海竜の謎も、重要な
アイデアの割にはメインシナリオとの関連が希薄。
最後も……突っ込む必要無かったんじゃ……。
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以上。
設定だけは面白そうなシナリオとコンビだっただけに、
心情描写やディティールの粗さが非常に残念。
イマイチの2.5判定で。

<2016.06.04鑑賞>

浮遊きびなご