青春ものであり恋愛ものであり友情ものであり学園ものでもある。
10年後の私から届いた手紙というファンタジーに乗せて、自殺してしまう友人を救おうとする物語。
2015年の思想。この作品が昔からある学園ドラマの最後くらいなのかなと感じた。
手紙をどのように受け取ったのかは描かれていないが、菜穂は10年後の自分が書いたという手紙を受け取る。
自分しか知らないことが的中している。
菜穂が手紙を一気に読まずに、その日のことだけを読むので菜穂自身が全体像を掴めない。
それは純粋に転校生の翔を好きになると同時に、自分自身が「後悔」したくないから。
この作品には青春時代に失敗して後悔したという誰もが持つ思い出と、後悔しない生き方を若者たちに伝えている。
「自分の気持ちを正直に話す」
「逃げるな」
一人で悩まないことや言うべき時には言葉にすること、などだ。
特に菜穂が上級生から学園祭の片づけを押し付けられ、花火が始まってもまだ片づけをしているという状況は、誰にでもあるような気がする。本当に大事なのはどっちだ? 「いま私は何と何を天秤にかけているのだ」
手紙の効果で少しは変わったのかもしれないが、実際翔の心の奥底にある澱は深く、それを引き出すのは難しいだろう。
何故か10年後の私から手紙を受け取っていた須和。彼は菜穂の力になってくれた。
同時に仲間たちにも事の次第を伝える。友達が一丸となって翔を救うために動き出した。
まさに青春ドラマ。
この作品は青春ドラマをファンタジー仕立てとして描いている。
矛盾点が多いところが残念な点だ。
ただ、手紙には従わず「ただ一緒に楽しむ」ことをしたリレー。
人の心に変化をもたらすのは実は「人間性」だという真理を描いている。
書いた手紙をタイムカプセルのように埋めるのも、根拠はないが強い思いではある。
翔が感じていた東京での人間関係や母親の自殺と祖母の体調不良という問題はそのままだが、新しい人間関係が翔の心を解きほぐしていく。
その日見てしまった母のスマホに入っていたメッセージの受け取り方が変わったのだろう。
いっそ死んでしまいたいという気持ちが、生きたい気持ちに変化していた。
だからトラックとの衝突を避けることができた。
作品は青春色が色濃く出ているが、翔の家庭内と東京でのことをもう少し描いてほしかった。
彼は容姿端麗のスポーツマンとして描かれているが、家庭内の事情と東京でのことを鑑みればもっとウジウジした性格でもいいはず。
そして松本での新しい人間関係が彼の性格に変化を与えたように描いてほしかった。
そこに主演二人のヒット作にしたいと仕立てたことが残念だった。
この作品の要素を考えると、広く自殺願望者に対するメッセージが伝えられたと思う。
この細部へのこだわりが作品作りには大切なんだなと感じた。
基本的にはいい作品だと思う。