「良質な密室心理サスペンス・ドラマ」エクス・マキナ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
良質な密室心理サスペンス・ドラマ
人工知能を描く映画は数々あるが、そのいずれもSFめいた物語になりがちだ。しかしこの映画が面白いのは、人工知能を相手取った、密室心理サスペンスの様相を呈しているからだ。主要な登場人物はたった4人。内、言葉を話すのは3人しかいない。ドーナル・グリーソン、オスカー・アイザック、アリシア・ヴィキャンデルの3人が形成するトライアングルの中を行き来する緊張感と心理戦こそが、この映画の主題だと言ってもよさそうだ(ソノヤ・ミズノは重要なカギを握りつつもトライアングルの外側に所在している)。人工知能の開発が行われているシェルター(コテージ)が在るその場所も、人里離れた山奥だ。どこか日本の風景にも似た濃い緑が印象的な森の中に置かれたシェルターは、中へ入ると途端にひんやりと殺風景な空間に変わり、ますます異質感を醸し出す。通常の人間世界から完全に隔離された場所としてシェルターが3人を心理的な密室へと取り込んでいく。その上で、人間と人工知能の間に生まれる絆の脆弱さ、人工知能のアイデンティティ、そして欺瞞などが見え隠れし、密室の心理サスペンスに拍車をかける。人工知能は実社会でも研究開発が進められており、既に実生活に入り込んでいる側面もあるが、それが更に進化・進歩したときに、人間は一体どうなるのか?という命題がこの物語にもある。ふと思い出したのは「her/世界でひとつの彼女」だ。あの作品も恋愛映画ではあったものの、人間と人工知能の関係を描いた傑作で、人工知能の発達によって翻弄される人間の話だと言い換えることもできた。グリーソンとヴィキャンデルが築く関係の脆さはまさしく人工知能の発達に翻弄されたものであるし、開発者であるアイザックさえも翻弄される一人であるというのも非常に理解できる話だ。
結末としては、現代に人工知能を取り上げた近未来の物語としては予測できるところではある。というか、そういう結末しか考えにくい、という風にも捉えられる。もう一歩その更に奥へ踏み込む結末に到達できそうだ、という期待感が物語から感じられたため、そこまで届かなかったことに少しだけもどかしさを覚えたが、ラスト、シェルターを出ていく直前の階段で、一瞬本当に少女のような笑顔を浮かべたヴィキャンデルの表情で全てが良しと思えた。肩を竦めてニコッと笑う無邪気さという「感情」と「人工知能」という対比が、最後の最後でびしっと決まった瞬間だった。
個人的に、オスカー・アイザック演じる人工知能開発者の人物像があまりにも胡散臭すぎて、きな臭すぎてどうも違和感があり、良質な心理戦の中においてこのキャラクターが果たして正解だったかは、少し疑問が残った。