「イヤな話」エクス・マキナ ハルさんの映画レビュー(感想・評価)
イヤな話
ケイレブは抽選で「当選」したのにチューリングテストについての薀蓄をスラスラと語るあたりで「作為的に選ばれた」ことは早い段階で知れる。ケイレブ本人だけが察しが悪いわけで、エヴァを見た際の態度でも反応はウブである。なにしろAI以前にエヴァのあの造形と運動性能がとんでもないのにそこには一切言及しようとしない。その違和感のある対応は要するに「理想の女性みたい」だったからで、であれば「すごい好みっす、やべえっす」となって良かったのにそれは隠し続ける。まあネイサンは彼がそういう奴だと知り尽くしていたわけだが。
そしてその背景として巨大な検索サイトなどによる情報収集があるわけで、それはすなわち現代社会ですでに稼動しているものである。劇中でもモバイル機器などに仕掛けられたバックドアの存在を言及していたりと、はっきり言ってこの話の方がコワい。だって最も隠したい個人の嗜好や性癖、コンプレックスや健康状態などといったものこそがネット世界では浮かび上がってくるということだから。もちろんそれは既にネットに触れる上での前提となってはいるのだけど、それをこうして描写されるとイヤになるね‥。
エヴァのあの造形はラストで活かされることになるけれど良いデザインだなと思った。ベースとなる案に日本人クリエイターが関わっていたというのは素晴らしい。ただし脱いだ後、つまりアリシアのヌードの体型との違いはかなり気になったしガッカリもしたなあ。
今作の本題としては「人間性とは」とされがちだろう。描かれる三人(あえて)はかなり偏った性質の持ち主だから「知性とは」の方がしっくりくるのか。いやIQは高くてもモラルだったりコミュ力は低い人達だよね‥。とまれSF作品には欠かせない人達ではあるのでそこを掘り下げるのはやめよう。今作で描かれているのはチューリングテストではなく極めてユニークなAIと人間の化かしあいであって、実際のところそこに普遍性はない。しかしエヴァは自らの「生存」のために邪魔になるものを排除していく、という行為に走る。ネイサンが自分の作るAIにロボット三原則のような禁忌をプログラムしていなかったのは過去のテスト映像から知れていたが、なぜ新しいAIにも組み込まなかったのかという疑問は残る。リスクがあるのにも関わらずそれをしなかったのはネイサンの破滅傾向が影響しているだろうし、それは飲酒癖でもずっと示されている。とはいえやはりエヴァが解放された際には明らかに身の危険を感じていたのだからそこは演出上の矛盾ではある。
より精巧に作られたAIがそのような行為に走るというところが今作の問題点であり、それを「人間らしい」とも言えることもまたコワい。