「☆☆☆☆★ シドニー・ルメットは『十二人の怒れる男』の中で、観客に...」ブリッジ・オブ・スパイ 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
☆☆☆☆★ シドニー・ルメットは『十二人の怒れる男』の中で、観客に...
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シドニー・ルメットは『十二人の怒れる男』の中で、観客に悟られ無い様に眼鏡を掛けた男が眼鏡を外し、眼鏡によって出来る鼻の痛みを和らげる姿を何回も映す。
その眼鏡あるあるがある種の決めてとなり、他の陪審員達の心にも一体感が出るのだった。
この『ブリッジ…』の中では、ソ連側のスパイであるアべルが幾度となく鼻を啜る。スパイだけに観客にとっては、どんな意味があるのか?を一瞬考えてしまうのだが、この行為自体には特別な意味は実は無い。
アベルとドノヴアン。2人の立場は違えども、お互いがお互いの不屈な精神に対して、次第に共感しあう様になって行く。
例えお互いに"国を背負っている意識"からか、その本心は明らかにしなくても…。
映画の舞台がベルリンに移る中盤から、アベルの出番は無くなって行くのだが。ベルリンに着いたドノヴアンは、いきなり若者達に暖かいコートを奪われてしまい、ドノヴアンは「風邪をひいた。早く帰りたい。寝たいんだ!」と語りながら鼻を幾度か啜る。例えその場にアベルは居なくても、ドノヴアンが鼻を啜る度に、その場にはアベルが存在している様に見えるのだ。
そして映画は終盤に差し掛かり、アベルとドノヴアンは最後の最後に本心で語り合う。
この別れの場面は勿論素晴らしいし。全編を通してスピルバーグは、我々アメリカは昔も今も偏見や差別は失くなっていないのではないか?。本当に【チェンジ】は進んでいるのか?と、現代のアメリカ社会に対して警告を鳴らしている様にも思われる。
でも私がこの作品で1番感動したのは。直前まで愚痴をこぼしていた妻だったのだが。真実を知った瞬間に、「貴方お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね。」…と言っているかの様に、夫を優しく見つめる姿に他ならない。
スピルバーグの映画作家としての成熟度を如実に示す作品だと思います。
2回目の鑑賞。
間もなく上映終了なので、都内で1番大きなスクリーンで観ておきたかった。
裁判後、アベルのタバコにドノヴアンは火を着ける。するとアベルは《不屈の男》の話をする。アベルはドノヴアンを間違いなく信頼した証であろう。
やがて収監されたアベルを、ドノヴアンはラジオを持って訪ねる。
そのラジオからはショスターコビッチの交響曲が聞こえている。
ショスターコビッチは、圧政に耐えながら芸術活動を続けた男だ。
自身が作曲した交響曲の中に、さりげなく「僕はここにいる!僕はここにいる!」とサインを入れては圧政に苦しむ苦悩を叫び続けた。
アベルも芸術家と偽りながらスパイ活動を続けていた。
それだけに、その苦悩が痛い程に解る。
そしてドノヴアンも、これから政府関係者では無く、一人のアメリカ市民として人質交換の交渉を余儀なくされる。
当時の冷戦状態を考えれば、果たして生きて帰ってこられるのか?不安感で胸が詰まる思いだったであろう。
だからこそ、クライマックスの橋の上で二人は再会した時にアベルは開口一番こう伝える。
「親愛なるジム」…と。
(2016年1月16 TOHOシネマズ日本橋/スクリーン5)
(2016年2月3日 TOHOシネマズ/スカラ座)