「「普通」の青春映画であることが、皮肉であり褒め言葉でもある。」彼の見つめる先に 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
「普通」の青春映画であることが、皮肉であり褒め言葉でもある。
主人公は生まれながらの全盲である。そして彼らが描くロマンスは同性同士によるものだ。言い方は乱暴になるが「障がい者映画」になってもおかしくないし「同性愛映画」と呼ばれてもおかしくはない。しかし、実際に作品を見て素直に感じる印象は、実に正統派の「青春映画」。まさしく、カミング・オブ・エイジ・ストーリーと呼ぶべき、だれの心にでも思い出として残っているような瑞々しい青春と淡い初恋が描かれている。障害があろうが性別がどちらであろうが、青春の爽やかさと眩しさは変わらないし、初恋も同じように狂おしくて甘酸っぱい。「典型的」と言ってもいいほどに正統派のカミング・オブ・エイジの物語の中に、視覚障害と同性愛がナチュラルに溶け込んで、まるで自分も体験したことのある出来事のようにさえ感じられてくるほど。それはきっと、片思いの相手にドキドキする気持ちや、将来に対する不安や、親との意見の食い違いや、学校生活の憂鬱や、友達関係のギクシャクなど、ストーリーを通じて描かれる主人公のこころと、青春の痛みと輝きが、とても鮮やかで普遍的だったからだと思う。だから、見終わった感想は、いい意味で良く出来た青春映画を見た後のそれであり、「障害者映画」や「同性愛映画」を見た時とは違うとっても爽やかな観後感だった。全盲と同性愛というへヴィーになりがちな題材を使って、こんなに軽快で爽やかな青春映画が見られたというのは、とても素晴らしいことだなぁと思った。
ただそれはこの映画の最大の長所であると同時に、一番つの欠点でもあったように思う。「普遍的」という言葉を使えば聞こえ方はいいのだが、穿った表現をすれば「ありふれた」と言い換えられる。全盲や同性愛を特別視せず、ごく普通の青春物語として描くということに主題があるとすればこれはある種の成功例であるけれど、全盲と同性愛を本当の意味で特別視せずにこの映画を見た時に、実は全盲と同性愛以上のオリジナリティが見つけられないということに気づかされてしまう。この映画の場合、良い意味でもそして悪い意味でも、「普通の青春映画」と表現するのが相応しいように思う。「普通」であることがとても素晴らしいことであると同時に、「普通」であるがために何か物足りない、というのが正直な感想だった。
でもこの映画の優しさ、温かさ、爽やかさ、瑞々しさは、本当に心地よくこころを包んでくれて、ずっとしまい込んでいた自分の青春時代の思い出を、この映画を見ながら鮮やかに蘇らせてくれたような気がした。登場人物すべてに心がきちんとあって、優しさも嘘も本音も愛も全部をちゃんと持った主人公たち3人の姿が愛おしくてたまらなかった。女友達ジョヴァンナの主人公レオナルドを見つめる目と、ガブリエルとレオナルドの関係に嫉妬しながらも大きな友情で二人を支える感じとか、10代だからこそできる素直な在り方かもなぁと、なんだかとても共感してしまった。
ところで、交換留学の話はどうなったの? というのは、あえて訊かないことにしましょうか。