「あっちゃん、アンタもロックやらんね?」モヒカン故郷に帰る ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)
あっちゃん、アンタもロックやらんね?
変な言い方かもしれないけど「バランスのとれた弾け方」をしている映画だなぁ~、と思いました。
よくあるパターンだけど、監督が勢い余って弾けちゃって、そのまま映画の流れが弾けっぱなしになることがあります。
本作の監督は沖田修一さん。
堺雅人さん主演の「南極料理人」を手がけた人。
僕は劇場で「南極料理人」を鑑賞しました。
あの作品も、ツボを押さえた笑いが実に的を得ていて、とっても楽しい作品でした。
おそらく、あの作品を作れる人なら、大きな「ハズレ」作品は作らないはず、と思って鑑賞したわけです。
本作での見所は、日本を代表するクセ者俳優、ベテラン柄本明さん演じる、弾けたじいさんの人物像。
これがおもしろい。
「ヤザワは義務教育じゃけんね」と青少年相手に”こんこんと”説教するような、熱狂的「矢沢永吉」ファン、田村治を演じます。
このおじいちゃんが住むのは、広島沖の瀬戸内海に浮かぶ離島。
もちろん島は漁師町です。そこへ、東京から息子が帰ってきました。
ほぼ7年ぶり。帰ってきた息子を前にじいちゃん、一言、
「お前生きとったのか?」
道楽息子は、東京でやっていたバンドも空中分解。まあ、ビジュアル系、パンク系のバンドで飯を食っていけるのは、ごく限られたエリートバンドだけな訳で……
この息子、田村永吉(松田龍平)が帰ってきたのは、一つの訳がありました。
結婚の報告です。
彼は同棲している会沢由佳(前田敦子)を島に連れてきました。
由佳のお腹には、すでに新しい命が宿っていました。
仕事もない、生活も安定していない。だけど子供を作ってしまった息子、永吉。
それを聞いた田村爺さん。
「このヤロォぉぉぉ~」と掴みかからんばかりに怒り心頭?
と思いきや、大喜びで大宴会を始めてしまいます。
このあたりの「人生はロックだぜ!!」と」言わんばかりのノリの良さが、田村じいさんの真骨頂といったところでしょうか。
ところがその後、田村じいちゃんに病気が見つかりました。
末期の肺癌。
残された日々、息子の永吉、フィアンセの会沢由佳、おかあちゃんの田村春子、それぞれの思いが交錯してゆくのです……。
本作では、久々に柄本明さんの楽しいお芝居を堪能できます。奥さん、田村春子役の、もたいまさこさんも適役です。
ロックバンドのボーカル、田村永吉を演じる松田龍平。モヒカン頭がごく普通に似合ってしまうのは、彼のとんがったキャラクターならでは、でしょう。
最後に、前田敦子さんについて、コメントしておきましょう。
本作の予告編を見たときから、僕は心の中で「あっちゃん、本当におめでとう」と念じておりました。
僕はAKBのファンです。
ただ、今までの前田さん出演の映画は、観るたびに心が痛みました。
というのも
「国民的アイドル」「元AKB」「絶対的エース」という「枕詞」が、必ず付いた状態での映画出演でした。
映画制作側としても、前田さんを使えば、それなりに興行収入が見込める、という目論見もあって、彼女をキャスティングしたのでしょう。
AKBを卒業してからの数年間、彼女にとっては、大変つらい映画出演だったと思います。
僕が感じるのは、彼女にとって何より大変だったのは、
「国民的アイドルグループ」「絶対的エース」「AKB」というあまりにも巨大な「バベルの塔」の頂上から、彼女は一旦
「ヒラの」「駆け出しの」「ぺーぺーの」女優さんの位置まで「わざわざ降りてくる作業」と労力が必要であったことです。
他の女優さんなら、こんな苦労はしなくていいんです。
僕が思うに、この数年の前田さんの映画出演は「頂上から地平に降りてくる作業」に他ならなかった、と思います。
そのとてもしんどい労苦は、とてつもない高みに登った人しか理解できない、大変な気苦労であったろうと思います。
本作を見て感じたのは、前田敦子という一人の新人女優は、ようやく、その「特別扱いされない」
ヒラの女優、の立ち位置まで「降りてくることに成功」したことです。
彼女は女優としての本当のスタートラインにようやく立てたのです。
今までご苦労様でした、と申し上げたい気分です。
本作で演じた妊婦役。
これもアイドル時代では考えられなかったことでしょう。
そういう意味では、今後の出演作が、いよいよ楽しみになってきました。
もっともっと、いろんな役に、存分にチャレンジしてみてください。
楽しみにしています。