劇場公開日 2016年4月9日

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「人情噺のような心地よさ」モヒカン故郷に帰る HammondJ3さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人情噺のような心地よさ

2016年4月10日
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鑑賞方法:映画館

沖田作品は「南極料理人」「滝を見に行く」しか観ていないのですが、この監督が撮ると、良い味の利いた落語、人情噺を一席聞いたような心地よい気分になってしまいます。
手作り感というべきか、噺家が客の感情を話の中で転がしていくような、ドラマと笑いのバランス感覚が絶妙なのだと思います。
予算をかけたフランス料理フルコースというよりも、劇中に出てくるような母ちゃんが作る(隠し味がアレな)美味しい煮物のような味わいがあるのです。

また監督には、市井の人の眼差しというのが根っこにあって、今作においても、島民のエキストラたちと役者のアンサンブルが作品の空気を形作っているので、観客も松田龍平演じる永吉の視線を通して、懐かしさと安心感が得られるのではないかと思います。

役者同士のアンサンブルも最高でした。松田龍平と前田敦子の2人は、最初のアパートのシーンでは少しぎこちなさを感じましたが、島に着いてから実家まで歩くシーンだけで、この2人の対照性が浮かび上がっていて面白かったです。柄本明ともたいまさこの両親ペアとの初対面のシーンでは、この家族のポテンシャルがすでに期待値を超えていました。
極め付けは、パンフレットにも載っていましたが、食卓を一家で囲んだシーン。別に、食事しているだけなのですが、左側にもたいまさこと前田敦子、右側に柄本明と松田龍平、男女で別れているだけでなく、利き手でももたいと前田の左利きペア、柄本と松田の右利きペアになっていて、これまた絶妙なコントラストを作っていました。
脇役の方達も、挙げればキリがないのですが、素晴らしくて、ただのホームドラマじゃない、コミュニティのドラマでもあるんだ、と気づかせてくれました。

人が織り成す業、というものを家族の視点を通して、面白おかしく、優しく描いた秀作だと思います。

HammondJ3