「巻き込まれたら嫌だな。を体験する映画。」ヒメアノ~ル テオさんの映画レビュー(感想・評価)
巻き込まれたら嫌だな。を体験する映画。
ディストラクションベイビーズと勝手に暴力映画二本立てで鑑賞。
ヒミズ以降の古谷実作品が持つ、日常生活の認識外で常に行われているであろう暴力に対する不穏さが、本当によく描けていた。
ある時を境に(それは明確には示されないが)連載当初からは予想もしなかった方向に突き進む原作と同じく、極めて映画的な手法で中盤に一気に作品のトーンが変化し、あらぬ方向に転がって行く。
このカットの為だけでも本作を観に行く価値があると感じた。
本作の目玉である殺人鬼森田の描写は、淡白な線で描かれるどこか間抜けな風貌の原作と同じく、基本的にはポップな画作りが多い吉田監督の演出が功を奏し、重くなり過ぎずよかったように思う。
演じた森田剛も、パブリックイメージを逆手にとった演技で、紋切り型でない新鮮なサイコパスを創り出していた。
そのおかげで、ムロツヨシ役のムロツヨシや濱田岳役の濱田岳も、森田の異質な佇まいとの対比が効いていて作品の持つ恐怖感を上手く煽っていた。
森田側としか関わらないイックと歩も、少ない出番ながらノワール要素を追加する役割として非常にマッチしていた。
終盤のゴア描写は劇場から悲鳴が上がるほどに容赦なく、登場人物と同じく、嫌というほど「日常は完全に終わった感」を感じる事ができた。
ただ、その非日常が結実するラストシーンは、観た瞬間は少し首をかしげてしまった。
原作ではっきりと描かれていた森田の持つ苦悩が、最終的にはあまり伝わっていないと思ったからだ。
しかし、よくよく考えてみれば快楽殺人犯の苦悩を共感することは限りなく不可能であるし、安易な感情の吐露を行うよりは、他者からの視点に止めておく方がテーマに対して誠実であるようにも感じた。
共感不可能な他者に対する恐怖を味わう日本映画としてfocusを連想したが、エンターテイメントとしてはヒメアノ〜ルが上回っていた。