劇場公開日 2016年6月3日

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「アメとムチとムチとムチ」サウスポー ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5アメとムチとムチとムチ

2016年6月12日
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鑑賞方法:映画館

アントワン・フークアという監督はドSだ。常に主人公をドン底に叩き落としてから、這い上がらせる。本作でもそのやり方は変わらない。ただ、今回は度が過ぎる。

43戦無敗のチャンピオンから妻、栄光、富、果てには娘までも奪い去り、人生のドン底へ急降下させる。底辺から頂点へ登り詰める作品は多かれど、一度チャンピオンというアメの味を知った者に挫折というムチを連打するからタチが悪い。しかも、彼が転落するきっかけが慈善行事の末に起こるのだから、やるせなさは募るばかりだ。

ここから這い上がることは並大抵の努力では無理である。アクション職人のフークア監督であるが、意外にも中盤までの長い時間を使って、ドン底生活から再び活路を見出だす姿を丁寧に描いている。そして、主人公が再びリングに上がる後半、彼は新しいファイティングスタイルを身につける。ボクシング映画は数あれど、ガードの仕方を指導する映画は珍しい。

自ずと試合のシーンはリアルさを増す。インファイターからアウトボクサーへ。パンチを打ち合うのではなく、如何に守るか?感情的に攻撃することで勝ち抜いてきた彼が、身を守りながら闘う姿は、己の身が一人のものではないと知った証だ。この闘い方に目頭が熱くなる。

個人的にはフークア作品の中では最高傑作であると思う。ただ、再起からタイトルマッチに挑むまでがトントン拍子に進んでしまった点とタイトルのサウスポーが持つ意味の強さが中途半端に留まってしまったのが残念だ。ボクサーとしても、人としても、挑戦者となり、再び立ち上がっていく高揚感が前半同様の丁寧さで描かれていれば、きっと21世紀を代表するボクシング映画となっていただろう。

Ao-aO