劇場公開日 2016年6月3日

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「羽海野さんの『ハチクロ』を、不意に思い出しました。」サウスポー 平田 一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5羽海野さんの『ハチクロ』を、不意に思い出しました。

2016年12月11日
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鑑賞方法:映画館

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私生活もボクシングも相手任せに頼り切って、自分自身を顧みず、責任転嫁ばかりだった。決して悪い人間でもダメなボクサーなんかじゃないけど、主人公ビリー・ホープは表すならまさに”未熟”の人。でもその未熟さは、誰しもが持ってるもので、そこに共鳴できるか否かで、映画を見る目が変わるかも(”未熟”は映画の出来自体にも通じる言葉なんだけどね)。

それでも僕はこの映画が大好きだし、最高だった。展開があまりにオーソドックスすぎるところは否めないし、「新しさ」は見えないところも納得せざるを得なかった。だとしても辛酸を舐め、落ちるとこまで落ちていっても、拳を奮って戦う男のドラマにはもう降参しかない。やはりどうもこの手の話は弱いようで、困ったものですw

ちなみに”何故『ハチクロ』なの?”と感じた方へ補足ですが(そもそも作品を知らない方は、ぜひ一度読んでください。少女漫画と侮るなかれ。男でも夢中になれます)、ビリー・ホープはその作品のヒロイン・はぐに似ているんです(あくまで個人の意見ですが)。漫画のネタバレぶっこみますが、最終10巻ではぐちゃんは男の子へこう言います(実はこの男の子は同志で想い人(?)なんです)。”描きたいの。これ以外の人生は、私にはないの”と。さらに前の9巻では、”「絵を描く」ということだけが、私を「守り」「生かさせて」くれた。描く事を手放す日が来たら、その場を命をお返しする”と。彼女にとって絵を描く行為はただの自己顕示ではなく、もはや呼吸と同じレベルの”生きるためのアクション”であり、ビリーがボクシングを続ける理由と、すべてでなくても似ているんです(ボクシングにこだわる理由も映画はちゃんと描いてます)。

ただ『ハチクロ』よりも映画は正直言うと(傑作には)寸前止まりで、もっと工夫ができたはずと思いました。それも何度も。だけどギレンホールの演技、フークア監督の演出は決して悪くないですし、『ナイトクローラー』に負けず劣らずのギレンホールがまた観れました。それだけでも映画を観る価値はあると思いますし、子役のウーナ・ローレンスの芝居もまさに必見でした(最早芝居を通り越した瞬間もありましたし)。

今年は邦画の異常なレベル(『シン・ゴジラ』や『君の名は。』、『聲の形』『この世界の片隅に』などの傑作映画)が非常に目立つ年ですが、個人的にはその布陣に負けない映画と思ってます。また何度も観たいって思ってしまっているほどですから。

平田 一