劇場公開日 2015年8月15日

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ふたつの名前を持つ少年 : 映画評論・批評

2015年8月11日更新

2015年8月15日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー

ナチス占領下を生き抜いたユダヤ人少年を、双子の兄弟が表情豊かに演じ分ける

ナチス占領下のユダヤ人少年ものというのは、もう立派なジャンルと言っていいだろう。「さよなら子どもたち」「僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ」「バティニョールおじさん」「ぼくの神さま」「マイ・リトル・ガーデン」などなど、実話を元にした作品も多い。ユダヤ人であることを隠し、サバイバルしなければならなかった少年たちにはそれぞれ胸を打つドラマがある。ここにまた、見応えのある実話ドラマが1本、加わった。

ポーランドのゲットーから逃げ出した8歳のスルリックは、父親と別れる前にこう言い聞かされる。「名前を捨てて、絶対に生き抜け。父さん母さんは忘れてもいい。だが、正体を偽ってもユダヤ人であることは忘れるな」。かくして彼はユレクという名を名乗り、ポーランド人孤児としてたった1人、生き抜いていく。

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彼がユレクとして生き抜いたのは、実に3年間という年月。寒さが厳しいポーランドの冬に必死で立ち向かう小さなユレクの姿に、胸が痛くなる。親切な婦人、パルチザンの青年、ナチスの将校、農場の少女らとの出会いが絶体絶命の危機にある彼を救うのだが、この幸運は彼自身が引き寄せたものだろう。絶対に生き抜くという強い意志と利発さ、そして勇気が人々の心を動かしたからだ。そうして彼はキリスト教徒を装い、「ユダヤ人じゃない!」と叫びながら生きる。ユダヤ人であるがゆえに腕を失いながらも。

このユレクをものすごい説得力をもって演じたのは、アンジェイカミル・トカチという、ふたつの名前を持つ少年。実は、双子の兄弟が演じ分けているのだ。タフなファイターの眼差しを発揮するシーンはアンジェイが、泣きじゃくったり無邪気に笑う子どもらしい表情はカミルが演じたという。自らも一卵性の双子だという監督は双子俳優の使い方のみならず、森でのロングショットで孤独感を際立たせたり、子どもが味わう別れの辛さを痛感させる演出も見事。終戦から70年、戦争とは何かを問い直す意味でも必見だ。

若林ゆり

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