「だめんず・オブ・エジプト」キング・オブ・エジプト 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
だめんず・オブ・エジプト
予告編と本編は別物だということは重々承知だし、
監督が『ダークシティ』『アイ, ロボット』等の
アレックス・プロヤスと知った後は「よほど
酷い出来にはならないはず」と考えたものの、
それでも2016年上半期で最もつまらなさそうだった
予告編は、『キング・オブ・エジプト』のそれだった。
じゃあ実際に観た本編はどうだったかというと……
予告編で恐れていたほどにはつまらなくはない。
が、エンタメとして突出した部分もあまり無い出来。
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アクションのある映画すべてに言える事だけど、
生身で演じるならともかく、CGや合成で演出した
アクションで観客を興奮させるのは元来難しいものだと思う。
実写と特殊効果の差に違和感を感じさせない事は勿論だが、
観客をキャラクターに感情移入させられなければ、主人公達の
活躍やピンチに手に汗握る!なんてことはまずない。
で、思うに本作、特殊効果は別段悪い方
ではないが、後者にものすごく難がある。
冒頭、びっくりするほどカリスマ性の無い顔の
主人公ベックがヒロインに渡す服を盗む所から、
さらにヒロインが盗品と承知でニコニコと着る所から、
この軽犯罪者カップルを応援する気が早くも失せた。
セト神の支配で離ればなれになってしまってからも
ベックは奴隷なのに特に苦労してる様子もなし、
必死に労働する他の奴隷は放っぽらかして愛する彼女の元へ。
……あのぅ、なんなんコイツ?
冒頭のナレーション通りそこからの成長譚が肝のハズ
と思ったが、ベックはそこからもいっこうに成長しない。
彼女との別れも“死者の国“があるから悲壮感は
薄いし、結局の所はどっちも無事だし、
ホルスとの友情を築き上げる点は良いとしても、
人間的には最後まで殆ど最初のままに見える。
(身分が上がる事を“成長”と呼ぶなら別だけど)。
一方のホルスはベックと比べればずっとマシだが、
こちらも終盤に入るまではあまり感情移入できない。
なので、アクションやCGモンスター満載にも関わらず、
しかも午前中の上映回だったにも関わらず、眠かった。
かなりの時間、あまり魅力を感じられない2人が
CG加工されて飛んだり戦ったり口喧嘩
したりするのをぼんやり眺めてた。
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ようやく眠気が覚め始めたのは、
愛の神ハトホルが冥界に引き摺り込まれ、ホルスが
後悔に駆られるあたり(つまりは終盤)から。
セトがどこかのアポカリプス様みたいな万能野郎になる展開にも「無敵じゃん! 勝てんの?」と
子どもっぽくちょっとワクワク (弱かったけど)。
オベリスク上での空中決戦も派手だし、自分の眼
よりベックを救うことを選んだホルスにはグッときた。
それにまあ、なんやかんやで映像的な見所はある。
世界が球ではなく平面で裏側が死者の国という
神話世界をそのままビジュアライズしたのは面白いし、
神々がメタリックな姿にトランスフォームして
戦う所はなんだか日本のヒーローアニメっぽいし、
わらわら登場するクリーチャーも楽しいっちゃ楽しい。
太陽の舟に乗って延々と邪神アポピスを迎撃し続けるラーや
ラヴクラフト作品のようなアポピスのデザインも悪くない。
にしてもジェフリー・ラッシュの神様感ハンパ無いね。
『喰らえ、ソーラー・ビィーームッ!!』(そんな台詞は無い)
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とはいえまあ、
映像的な派手さと面白さというのは全く
一致しないものだなと再認識させられた作品。
僕は字幕派なので今回も2D字幕で観たが、
他の方のレビューを読む限りは吹替版を
避けたのは正解だった様子。
そっち観てたら1.5~2.0くらいだったかも。
<2016.09.10鑑賞>
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余談1:
文脈に合わなかったので省いたのだけど、
あれだけのチート武装で臨んだのに片目のホルスに
ボコボコにされるセト様には「ぁ、ぇ、弱……」となった。
今回のジェラルド・バトラー、
凶悪な見た目に反して小物感強過ぎない?
余談2:
アポピスという名の神様を初めて聞いたのだけど、
エジプト神話で世界創世時から存在する、闇と混沌の
神なんだと。多くは大蛇として描かれるそうな。