「忘れてはいけない。人が、死んだんだ」64 ロクヨン 前編 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
忘れてはいけない。人が、死んだんだ
原作がベストセラーで、NHKドラマ版も大好評。
そうなると、映画版に賛否両論出るのは必至。
本作に限った事じゃないが、必ずしも全員が原作を読んでいる/見ている訳ではない。自分も原作未読が多いが、別にそれを恥じてはいない。
新鮮な気持ちで見れるし、映画版は原作未読でも楽しめるかという醍醐味がある。
その点、本作はクリア、いやそれどころか、非常に満足であった!
平成も28年が過ぎ、もはや遠い昔になりつつある昭和。
ましてや、たった七日間しか無かった昭和64年など記憶に留める間も無く過ぎ去った。唯一の記憶は昭和天皇崩御のみ。
当時小学1年生だった自分も、CMすらナシで昭和天皇崩御を報道し続けるTVに飽き、友達とゲームをしていた記憶が辛うじて残ってるくらい。
もし、その七日間に今も取り残されている者たちが居たら…?
昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件。
時代が平成となり、人々の記憶から忘れ去られ、未解決のまま時効まで後1年を迎え…。
勿論フィクションだが、実際にあっても全くおかしくない。
個人的な印象としては、前編は64事件の進展さほどナシ。
いよいよ事件が大きく動く…という所で終わり、本当の見せ場は後編までお預け。
おそらく原作既読者には見逃せない伏線張られ、少なからず事件のある隠蔽が明かされるも、全体的にかなりのスローペースで、肩透かしを食らうかもしれない。
が、前編は人間ドラマなのだと感じた。事件に関わった人々の“今”を、丹念にじっくり描く。
主人公・三上は、かつて64事件捜査にも当たった元刑事で、今は広報官。
上層部と記者クラブの間で押し潰される日々…。
彼には64事件にしがみつく理由があった。
刑事として事件を解決出来なかったからだけじゃない。
遺族の雨宮は娘を失った。
そして三上も娘の失踪という問題に苦しんでいる。娘と確執を残したまま…。
死と失踪はまるで違うかもしれないが、同じ一人の父親としての娘への思い。
三上が雨宮に心情を重ねても無理は無い。
あの日から時が止まったままの雨宮。
その時のあるミスと隠蔽により人生を狂わされた関係者。
焦燥、悲しみ、苦しみ…。
その事を、多くの人が知らない…。
三上が記者クラブと対立している原因のとある人身事故。
本作のクライマックスで、三上が記者クラブの一同にある話をするシーンがあるが、凄まじく引き込まれた。
それは、警察が隠した人身事故で亡くなった老人の話。
その老人の人生は決して幸福ではない。ずっと陽の当たらないような人生。
そんな人生のささやかな幸福…。
その事を、誰も知らない。
それどころか、死んだ事すら公にされない。
人が、死んだ。
それが、どんなに悲しい事か。
被害者の声を、消し去ってはいけない。
忘れてはいけない…。
出るわ出るわ、覚えるのが一苦労なほどの豪華キャスト。
ベテランから若手まで全員が重厚な演技を見せる。
一人一人語る事は無理なので、ここはやはり、主演の佐藤浩市。ほぼ出ずっぱりで、作品を背負って立つ名演と存在感は圧倒的。
メジャー作品では出来にムラがある瀬々敬久。昨年のSFアクションの憂さを晴らすような骨太演出。
後編も見ないと本当の感想は言えないが、現時点では見応えありの4点。
後編次第では変動あり。
後1ヶ月、待ち遠しい!