劇場公開日 2015年10月24日

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ギャラクシー街道 : インタビュー

2015年10月23日更新
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三谷幸喜監督が解き明かす、綾瀬はるか進化論

劇作家・脚本家として絶大な人気を誇る三谷幸喜の7本目となる監督作「ギャラクシー街道」が、10月24日から全国で封切られる。スペースロマンティックコメディという新機軸を打ち出し、西暦2265年が舞台の今作でヒロインとして躍動するのが綾瀬はるか。三谷監督と綾瀬による、爆笑の絶えないインタビューが幕を開けた。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)

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木星のそばに浮かべスペースコロニー(宇宙空間に作られた人工居住区)の「うず潮」と地球を結ぶ、老巧化が激しいスペース幹線道路・ギャラクシー街道で「サンドサンドバーガー・コスモ店」を営むのが、香取慎吾が演じる主人公のノアだ。綾瀬扮するノアの妻ノエは「スター・トレック」に登場するミスター・スポックの遠い親戚という裏設定になっており、キュートなショートカットは見る者に強烈な印象を残す。

「ザ・マジックアワー」以来7年ぶりのタッグとなった綾瀬に対し、三谷監督は「昔から僕は綾瀬さんを『日本のジュリー・アンドリュース』だと言っているんです。でも、『メリー・ポピンズ』のビデオを貸しても、なかなか見てくれなくて」とぼやいてみせる。一方の綾瀬は、「見ましたよ! 6年くらいかけて見ました」と釈明。さらに、「見よう、見ようと思って……。中途半端に6年後に見ちゃった」と苦笑いを浮かべる。

三谷監督にとっては初のSF作品となるが、宇宙の片隅にあるハンバーガーショップの中で展開されることからも分かる通り、三谷監督の真骨頂ともいうべきシチュエーションコメディに仕上がっている。今企画は、「THE有頂天ホテル」公開後、プロデューサーから『次はラブストーリーが見てみたい』と言われたことが発端となっている。脚本は今年に入ってから執筆したそうで、「割と自分の得意分野でしたから、そんなに苦労はしませんでしたね。『清須会議』みたいに調べないといけないこともないですし、全部ぼくの頭の中で考えればいいことだらけなので、苦労はなかったですねえ」と振り返る。

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ノアとノエは地球人と宇宙人のクォーターだというが、オファーを受けた際、綾瀬は自らの役どころがどのようなビジュアルか想像がついたのだろうか。「宇宙人と聞いて、最初は顔が緑色なのかなと思ったんですよ。でも衣装合わせに行ったら、ヘアだけ面白いけれど顔に何かをするわけではないと分かったので、あんまり宇宙人を意識することなくお芝居することが出来ました」。

綾瀬の言葉を引き継いだ三谷監督は、裏話を披露。「実は香取さんもノエのような髪型にしようと思ったのですが、どうも似合わなかったから綾瀬さんだけになったんですよ。ただね、最初にこの企画を考えたときは、綾瀬さんの役は今と全く違う設定でした。すごくセクシーな衣装で、ほとんど裸じゃないかっていうイメージだったんですよ。綾瀬さんがすごくノリノリになっているって聞いたんですよ」。

これには綾瀬も「本当ですか? 知らなかったです」と大爆笑。三谷監督は、「だいぶ話が変わって、ここに落ち着いたんです。最初は宇宙を漂流している女性の役で、たまたまサンドサンドバーガーに流れ着いて、香取さん演じるノアを助けるっていう設定でした。だから、衣装もボロボロなんです」と明かす。

綾瀬は今年、是枝裕和監督の最新作「海街diary」で主人公となる4姉妹の長女を演じ、第68回カンヌ映画祭で喝さいを浴びたことは記憶に新しい。前作の香田幸とは対極に位置するような役に嬉々として取り組んだわけだが、梶原善演じるババサヒブの長い舌で顔をなめ回され、逆になめ返そうとするシーンで見せた表情は、撮影現場にいた多くのスタッフをメロメロにさせた。

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三谷監督「ああいうの、すごく上手ですよね。なんで、あんなに面白いんですか? あの顔は、その場で考えたんですか? なんで目が寄るの?」
 綾瀬「目が勝手に寄っちゃっただけなんです。計算でやったわけじゃないんですよ(笑)」
 三谷監督「編集のときも、綾瀬さんの目が寄った顔のところだけ静止して、みんなで見ていたんです。本当に面白いですねえ」

三谷監督は、なおも綾瀬を絶賛する。「7年前から比べると、びっくりするくらいお芝居が上手になられています。乱暴な言い方になりますが、セリフを言うことは誰でも出来るといえば出来るんです。ただ、そうではない、しゃべっていないところとか、ぽつんとたたずんでいる時に人物の気持ちをどれだけ表現できるかが大事。それを、綾瀬さんはきっちり、丁寧に演じてくださっていたんです」。

「何があったんですか? この7年間で」と問いかける三谷監督に対し、綾瀬は「何もないですよ(笑)。何もないのですが、意識が芽生えたんですかね」と謙遜する。それでも、「大河(『八重の桜』)をやらせて頂いたことは、やはり大きかったのかもしれません。ひとつの役をこれだけ長く演じたことは初めてでしたし、実在する人物でしたから」と明かし、“女優・綾瀬はるか”にどれほど大きな影響を与えたかを示唆する。

また、ノエに思いを寄せ、執拗に追い掛け回すスペースリフォーム業者のメンデスに扮した遠藤憲一と綾瀬のシーンは、プレス試写会で多くの報道陣の爆笑を誘った。メンデスは一見渋いキャラクターだが、両性具有で黄色いフレンチコートを脱ぐとボンデージファッションに身を包んでいる。

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だが綾瀬は、「最初に見たときはもちろん笑いましたけど、本番中は演技に必死で笑うことはありませんでした」と振り返る。三谷監督も、「綾瀬さんはあまり芝居中に笑っちゃうことってありませんよね。あのシーンでは、ふだん本番で笑うことのない香取さんですらちょっと吹いちゃっていましたが、綾瀬さんは必死でしたよね」と同調する。

芸達者な俳優陣がこれでもかと登場するため、見どころも枚挙にいとまがない。そんななか、小栗旬が演じたのは、宇宙の平和を愛する正義の味方キャプテンソックスの世を忍ぶ仮の姿、スペース警備隊勤務のハトヤ隊員だ。劇中である事件が発生し、ノアやノエ、ハンバーガー店の客たちの眼前にキャプテンソックスが現れるシーンでは、オールキャストが“正義の味方”に対してあらん限りの罵声を浴びせる。三谷監督は、「映像を見ながら別撮りして、好きなように罵声を浴びせたのですが、キャプテンソックスがカメラ目線になった瞬間に、綾瀬さんが『こっち見るなし!』『逃げるなし!』って叫んだんです」と明かし、目を細める。

作品を重ねれば重ねるほどキャストが豪華になっているが、今作のクライマックスではカエル型宇宙人のズズ(西川貴教)が、三谷監督作詞、荻野清子作曲の「The End of the Universe / 宇宙の果てまで」を歌い上げている。これまでにも監督作で何らかの形で音楽シーンを登場させていることから、否が応にもミュージカル映画製作に期待を寄せてしまう。

インタビュー終了時、筆者が「監督、いつかミュージカル映画をぜひ作ってください」と声をかけ、三谷監督が「はい!」と即答すると、2人を不思議そうな面持ちで見つめ、「あれ? 『ギャラクシー街道』ってミュージカル映画じゃないの?」と綾瀬がつぶやいたのは、ご愛嬌である。

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