「出会ってしまった」キャロル だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
出会ってしまった
年上の美しい(本当に息を呑むように美しい)キャロルに、テレーズの視線がフィックスして動き出す、恋の物語です。
音楽がとても雰囲気に合っていて素敵でした。「You Belong to Me」が、この時代の歌だとは知りませんでした。アリーマイラブでよく使われていて知っていたのですが。
見終わってからも「You Belong to Me」と「別れの曲」が、頭から離れませんでした。仕事中に無音で口ずさむ始末です。
「You Belong to Me」の入ったCDは持っているので、別れの曲のボーカルバージョンがほしくて、iTunes Storeでがんばって探しましたが、男性ボーカル版しか見つからず・・・。キャロルのサントラにも別れの曲は入ってないのですよね。女性が歌う別れの曲が欲しい!どうしたらいいのかしら。
女と女が出会って、抗いようのない恋に落ちました。キャロルにとってテレーズはまさに苦界に降り立つ天使に見えたのでしょう。テレーズにとってキャロルは成熟した人生の扉を開く先導者といった感じでしょうか。
どんな時代であっても、人の恋路を他人がとやかく言うのはおかしいと思いますが、そうはいかないのが社会であって文化だと思います。1950年代の同性愛は病気扱いだったのですね。イミテーションゲームでのベネ様を思い出しました。キャロルが夫とその両親に精神を病んだ女として扱われることに、胸が痛みました。
娘のために、求められる「正常な」母・妻を演じようと必死で取り繕っていたキャロルでしたが、離婚調停の席で、本音をぶちまけます。自らに誠実でない人生に意味はないと。
自分を偽らないと決め、その大きな代償を引き受けると語る姿に涙が出ました。
テレーズにとっては、同世代の彼氏との「ごっこ」ではない、初めての恋愛だったと思われます。キャロルに冷たくされ、とめどなくあふれる涙や、正面に座るキャロルを見つめる表情などから、キャロルへの思いに全てが支配された(それは喜びであり、痛みですが)様を感じました。強い喜びは、強い痛みを呼びますのでね。
望む/望まざるに関わらず、遭遇したら避けられない、天からの贈り物、あるいは災難ともいえる恋というのが、時々あって、テレーズが巻き込まれたものはそれなんだ、と思いました。
世にあまたある恋愛は、殆どが真似事であり、性欲の交換に過ぎないのではないかと、私は思っています。殆どの人は、運命の恋とか、真実の愛みたいなものを体験できずに人生が終わる気がします。なので、うらやましさと、その激しさにぬるい真似事で十分でしょという負け惜しみとを感じました。
テレーズの成長物語でもあります。女子大生のようだったテレーズが、キャロルとの出会いと別れを経験し、新聞社での仕事と成熟した女性らしさを獲得した様子が伺えます。
そんな中、再会した二人が選んだ結末はいかに、というところですが、どちらとも取れる描き方で解釈が分かれるところです。朗々と謳いあげられた「別れの曲」の後にラストが来るわけですからね。永遠の別れを告げたのか、愛を語ったのか。私は後者であってほしいと思っています。