われらが背きし者 : 特集
「007」「ボーン」「M:I」が好きなのに、ル・カレ作品を見てなくていいのか?
全スパイ映画ファンよ、「裏切りのサーカス」に続く“本格派”を味わえ!
「裏切りのサーカス」「誰よりも狙われた男」に続く、ジョン・ル・カレ原作映画「われらが背きし者」が、10月21日より全国公開。ユアン・マクレガー、ステラン・スカルスガルド、ダミアン・ルイス、ナオミ・ハリスら実力派共演で描かれる本格派作、スリリングな亡命劇の見どころに迫る。
「裏切りのサーカス」「ナイロビの蜂」ほか傑作が続々──
スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレ原作=《良質・正統・本格派》の証
「007」シリーズや「ボーン」シリーズ、そして「ミッション:インポッシブル」シリーズと、大人気を博しているスパイ・アクション。世界を股にかけたスパイたちのスリリングな駆け引きに手に汗握るなら、スパイ小説の大家、ジョン・ル・カレ原作作品も外すことはできないと断言しよう。
1931年のイギリス・イングランドに生まれ、85歳を迎えようとしてもなお活躍中のル・カレだが、イギリスの秘密情報部(MI6)に実際に所属していたことでも知られている。MI6時代の経験を基にしたリアリティあふれる小説群は高い評価を受け、エドガー賞作品を原作とした65年の「寒い国から帰ったスパイ」を皮切りに映画化作品も続々。00年以降はさらに映画化のペースが加速し、05年の「ナイロビの蜂」ではレイチェル・ワイズがアカデミー賞助演女優賞を獲得、11年の「裏切りのサーカス」(ゲイリー・オールドマン主演)はアカデミー賞3部門ノミネートで賞レースをにぎわせただけでなく、日本でも大ヒットを記録した。さらにはフィリップ・シーモア・ホフマンの急逝後に日本公開された「誰よりも狙われた男」(13)も注目を集めるなど、まさにスパイ映画の正統派、本格派としての高い評価を得ているのだ。
トム・ヒドルストン主演のミニ・シリーズ「ナイト・マネジャー」も好評を博し、「寒い国から帰ったスパイ」のドラマ・リメイク化も発表され、まさにいま、“旬”を迎えているのがル・カレ作品なのだ。
最新作「われらが背きし者」も“本格派”感が満載──
見よ、この本作が持つ《良質要素》の数々を!
映画ファンの前に新たに降り立った最新作、「われらが背きし者」もまた「スパイ映画の本格派」。作品の見応えを保証する、数々の良質要素を紹介しよう。
ル・カレ作品が原作というだけでクオリティが保証されているのはもちろんだが、10年に発表されたばかりということもあって、描かれる内容は「際立って現代的」(スザンナ・ホワイト監督)。さらにル・カレ本人が製作総指揮に名を連ね、脚本制作の際に脚本家と密に連絡を取ったというだけに、ル・カレ色が濃厚なのだ。
「スター・ウォーズ」シリーズの娯楽超大作から、「ゴーストライター」など作家性の高い作品にも出演し、高い人気と実力を誇っているのがユアン・マクレガー。「この人がいるところに良作あり」と称され、出世作「トレインスポッティング」の続編も控える実力派人気スターが堂々主演。安心して物語を託せる。
脇を固める面々にも注目だ。ロシアン・マフィア役にはスウェーデンの名優ステラン・スカルスガルド(「ドラゴン・タトゥーの女」)が起用、MI6のエージェント役には、「HOMELAND」のゴールデングローブ賞俳優ダミアン・ルイスが扮する。そして主人公の妻を、「007 スペクター」のナオミ・ハリスが演じるのだ。
本作のメガホンをとったのは、英BBCで多くのドキュメンタリーを手掛けたのち、「ジェイン・エア」「パレーズ・エンド」のTVシリーズで高く評価されたスザンナ・ホワイト。男たちの思惑が交錯するスパイの世界が舞台ながら、危機を前にして主人公夫婦が愛情を取り戻していく描写など、女性ならではの視点が新鮮だ。
ル・カレと意見交換し、原作小説を見事に映画脚本へと昇華したのは、ライアン・ゴズリング主演の異色作「ドライヴ」のホセイン・アミニ。「鳩の翼」でアカデミー賞脚色賞にノミネートされたほか、ビゴ・モーテンセン&キルステン・ダンスト主演の「ギリシャに消えた嘘」で監督デビューも果たした注目の才能だ。
アカデミー賞監督ロン・ハワード、ダニー・ボイルとの名コンビで知られるカメラマン、アンソニー・ドッド・マントル(自身も「スラムドッグ$ミリオネア」でアカデミー賞撮影賞を受賞)が撮影監督。機動力を重視した撮影方法で、キャラクターたちの心情に寄り添った本格映像を撮り上げている。
MI6・マフィア・亡命・マネーロンダリング・復しゅう・裏切り・友情・愛
ごく普通の男=あなたは、世界5カ国を股にかけた諜報戦に“巻き込まれる”
本作が描くのは、大学で教鞭を振るう教授=ごく普通の男が、亡命にまつわる国際的な陰謀に取り込まれていく姿だ。スパイ自身が主人公だった従来のル・カレ作品以上に、観客の共感度が高まっているのは間違いない。
自身の浮気が基で妻ゲイル(ナオミ・ハリス)との関係を悪化させてしまった大学教授ペリー(ユアン・マクレガー)は、夫婦のバカンスでモロッコを訪れていたが、ふたりの間に流れる空気は依然として険悪なままだった。そんな折、レストランで見るからにただ者ではないロシア人・ディマ(ステラン・スカルスガルド)から声をかけられたペリーは、怪しげなパーティに連れ出され、ディマとの交流を深めていく。
ディマはロシアン・マフィアの大物だった。だが、組織のボスが替わったため、このままでは命が危ないと言い、マネー・ロンダリングに関わっているイギリスの政治家の情報と引き換えに、家族ともどもイギリスの保護を求めたいとペリーに告白する。ディマの美しい妻や愛らしい子どもたちを紹介されたペリーは、機密情報が保存されたUSBメモリーを預かり、MI6に渡す役を嫌々ながらも引き受ける。「絶対に巻き込まない」と約束されていたにも関わらず、ペリーは帰国早々空港で尋問を受けることになってしまう……。
何の特殊能力も持たない平凡な人物が、突然非日常的な世界に足を踏み入れてしまう“巻き込まれ型サスペンス”は、見る者と主人公の境遇が近い分、共感度と没入度が高く、傑作が生まれる傾向が強い。「北北西に進路を取れ」「知りすぎていた男」等のアルフレッド・ヒッチコック監督作品から、ハリソン・フォード主演の「逃亡者」、トム・クルーズ主演の「コラテラル」、ウィル・スミス主演の「エネミー・オブ・アメリカ」など数多くの作品が挙がるはずだ。世界5カ国を股にかけた陰謀あふれる亡命劇に、否が応でも巻き込まれていく本作の主人公ペリー。目の前の危機に立ち向うしかなくなる彼の姿に、手に汗握るのは間違いない。