「ブルー・フェアリーもクリケットも居ないピノキオは…」チャッピー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ブルー・フェアリーもクリケットも居ないピノキオは…
「第9地区」「エリジウム」に続く、ニール・ブロムカンプ監督によるオリジナルSF。
人工知能を搭載され、自我に目覚めたロボット“チャッピー”の運命。
アメリカでは興行面で大コケ、批評面でも酷評レベルとなってしまったが、なかなか見応えある作品になっている。
無知で無垢で、良い意味でも悪い意味でも周りから学習し影響を受けながら進歩していく。
幼い子供のようなチャッピーが愛らしい。
ロボット故表情は分からないが、喜び、悲しみ、怯え、怒り、その感情が不思議と伝わってくる。
シャルト・コプリーによるパフォーマンス・キャプチャー演技も大きな成果を上げている。
あちこちで言われている通り、ロボット版「ピノキオ」。
ある日突然命(人工知能)を吹き込まれ、愛くるしい言動・仕草はあの木彫りの人形そのもの。
様々な試練が立ち塞がり、模索するアイデンティティー。
チャッピーの生みの親ディオンはゼペット、ニンジャ一味が正直ジョン、ディオンのライバルのヴィンセントはさながらクジラの王様モンストロか。
ブルー・フェアリーやクリケットに該当する人物が居ないのが、気になった。
見守ってくれる、もしくは導いてくれる存在は、言ってみればファンタジーの世界。
身一つで劣悪な環境に放り出された時、“感情”にどう影響を与えるか。
幼い頃から人を殺す術を叩き込まれた少年兵の例がある。
環境が人格を形成する。
チャッピーもギャングたちに教え込まれ、汚い言葉を覚え、犯罪の片棒を担いだ。
しかし、決して人の命を奪う事はしなかった。
ディオンとの約束であり、ギャングたちの中で唯一愛情を注いでくれた“ママ”の存在もあったと思う。これも感情に与える影響。
そして、自分自身はどう感じ、考え、選択するか。
後は自分次第…と言ったら無責任な丸投げだが、その問いかけがチャッピーのシビアでリアルな進歩。
本作のような題材の時、俗な言い方だが、一番恐ろしいのは、いつだって人間。
チンピラたちの不条理な暴力、チャッピーに搭載されているチップを無理矢理奪おうとするヴィンセントは人間の強欲。
人工知能の進化が吉か凶かは簡単に言い切れないが、それを左右するのも人間。
人間の価値観によって理想とも悪夢ともなるテクノロジーは永遠の難題。
それを考えさせたのは、ラスト。
本作の評価が芳しくなかったのも、そのラストのようにも思う。
微かな希望とも恐ろしい未来とも考え取れる。
ネタバレになってしまうので詳しく書けないが、もしああいう“命の存続”が可能になった場合、命の尊さがうやむやになってしまわないだろうか。
限りある命か、存続する命か。
社会的な問題を訴えつつ、ロボのデザインや派手なアクションなど娯楽要素も充分。
さすがに「第9地区」ほどではないけど、現代SFの名手、これぞブロムカンプ節!
抜擢された「エイリアン」新作も気になるが、独自のオリジナルSFをこれからも作り続けて欲しい。