「今の日常は当たり前じゃないんだよ」クーデター 幸ぴこリンさんの映画レビュー(感想・評価)
今の日常は当たり前じゃないんだよ
コメディやロマンス・ドラマにばかり出演している印象のオーウェン・ウィルソンが珍しくこんな重そうな作品に出ているなんて!と思い、huluで見つけて視聴。
う~~~ん、思っていたよりもずっとずっと凄惨でヘヴィな作品でした。
嫌いじゃないけど、辛い!という感想。今ある日常がクーデタによって豹変する恐怖を手に汗握りながら観賞しましたよ。
主人公達が局面する出来ごとは政治的な背景が原因ではあるが、
当の本人にとってそんな事は殆ど関係がなく、ただひたすら命の綱渡りをせねばならない状況に突然追いこまれる。
彼らの意志を持った選択が招いてゆく…という流れは存在せず、ただ突然、猛スピードで渦中に追いやられるのだ。
観ていてとても、ドン・チードルの『ホテル・ルワンダ』に通じるものがあるな、と思った。
他の方々が「何故このような状況に陥ったのか説明不足で分かりづらい」とレビューしていましたが、
私にとってはこのわからなさが逆にこの映画のエッセンスな気がしました。
本人達にとっても、観ている側にとっても未知のまま放り込まれる恐怖感。
敵にも、そして時々いる味方にすら言葉が通じない。
この映画の魅力は、主人公と妻の適応力や変化のめまぐるさ。
特に最初は「無理」「助けを待ちましょう」の一点張りだった妻が
生死を分ける状況を切り抜けていくにつれ現状を理解し、精神が研ぎ澄まされ冷静になってゆく姿には感動する。まさに、母は強し。
対する子供達のメンタルの動きもまた生々しく、心理描写の掴みが凄い。
最初は状況も理解出来ず、ひたすら騒いで喚いて拒否して…だったのが、ドンパチの中を切り抜け父親に隣の建物にブン投げられてやっとこさ今がどんなピンチかを理解する。
…が、極限の消耗状態でやっぱり弱ってしまって心細くなってしまったようで、終盤は観ているこっちが苛々してしまう程のクソプレイを姉のルーシーがかます。
それを許して、愛を伝え、ひたすら「いいんだよ、大丈夫だよ」を伝える主人公の姿に号泣……。
子を守る親って、こういうものなんだね。観てる方はムカつくけどね。ルーシー、酷過ぎ…。
しかし、本当に重く辛い作品ではありますがそれゆえに家族が無傷?で全員助かるところに何か欠けるものを感じます。
家族のうちの誰かが失われていたら、永劫語り継がれる作品になったんじゃないかな、なんて。