「ミステリーの裏に隠された深い沼」湿地 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ミステリーの裏に隠された深い沼
始まってから30分くらいの間は、名前が覚えにくい、顔が認識し辛い、殺人事件と病気の娘を持つ男の話の二つが絡む事なく同時進行するので、理解が追い付くか心配になるほどこんがらがった。
しかし、少しずつ物語(事件捜査)が進んでいくと中盤以降は特に問題なく観ることができた。なので序盤で諦めるな。
ミステリー、サスペンスとして普通に面白いけれど、直接的に関係ない部分でも色々と面白い作品だった。
まずは作品全体の空気感。幾人かのレビュアーさんがシメジメしていると書いているが、初めのうちはむしろ乾燥気味で、天気の悪い南極のようだったと思う。それが事件の真相に迫るにつれ湿度を増していき、気が付けばジメっとしていた。終盤の床下を開ける場面などは沼地な事もありジメり感は最高潮の200%に達するほど。この湿度が変化していく感じは面白かったね。
次はやはり食べ物の事かな。まあとにかく食べまくる。羊の頭に羊の頭のスープに、また羊の頭に、サンドイッチにフライドチキンにドーナツと、原作小説でも書かれているのかわからないけど、そんなときでも食べるか?ってほど食べまくる。あまりの多さに何かを示唆しているのは確実だろうが、自分にはちょっとわからなかった。
それでも、羊の頭をむさぼりながら、おそらく聖書だろう本の一節を読むシーンは、恐ろしく悪魔的な何かを見た気がしたね。読んでいたのは主人公の刑事さんだけどさ。
それと、アイスランドではダイナーみたいなところで羊の頭が食べられたり、テイクアウトで羊の頭が買えたりするんだと知れて面白かった。
ここからは肝心の内容について。とはいっても犯人がどうとかいう話ではない。
終盤に「遺伝学者は我々のような者をことをなんと呼ぶか知っているか?。偏差だ」というセリフがある。つまり平均的な人から遠く離れた性質を持っている人のことだ。この場合は遺伝病の保因者。犯人はこれを排除しようとしていたのね。偏差の存在が悪を生むという社会的なプレッシャー、風習によって。
これに対し主人公の刑事さんは、偏差を排除しようとする考えそのものが悪を生むのではないかと考えたのね。
思い返してみれば、主人公の相棒の刑事はアメリカ出身で羊の頭を食べない菜食主義者という偏差として作品内に最初から存在していた。この人を主人公は毛嫌いするように接していたのだが、最後には冗談を言うくらいに受け入れ始め、変わっていった。
さてここで主人公の娘のことを考えてみよう。父親が誰かを言わない子を妊娠している。周りの人に売春婦だと呼ばれる。刑務所にいた被害者の仲間は娘の性的な特徴を知っていた。あれあれ?もしかしてお腹の子の父親は・・・
ラストシーンで娘と並んで横たわる主人公は、何が正しいのかわからなくなったと言う。二人はお腹の子をどうするのでしょうね。