「アイスランドの風景を見るだけでも」湿地 redirさんの映画レビュー(感想・評価)
アイスランドの風景を見るだけでも
アイスランドの風景や生活を見る、知るだけでも十分によかった。登場人物の顔や関係性名前がよく覚えられず途中不安になるか、
腐敗した元警察官、警察に不信を抱く者、関わりたくない者関わりを忘れたくない者の沈黙、罪の意識、関わりをある意味強制された者の怒り、復讐や捜査への執念、いろいろな親子の関係、血のつながり、などの重苦しい問題が、厚い雲にいつも覆われ寒々しいアイスランドの風景の中で陰気に、彼らなりのジョークやユーモアも交え物語は進行していく。最後わかりやすく回収されるので途中迷子になっても大丈夫だった。遺伝性の脳の病の[保因者]であること、知らずに遺伝して子どもたちが亡くなってしまう、これを断ち切ろうとするのだが、さまざまな殺人や犯罪を通して結局は遺伝子の問題、生命の倫理、生命の尊厳の問題を考えざるを得ない、善悪や幸か不幸か、単純に割り切ることはできないとても危険な問題提起。
最後、主人公の刑事が娘に語りかける言葉、人は汚れを無関係なものとして遠くから眺めて保身しようとするが、そのうち汚れへの嫌悪が私たちを蝕む、と。無関係を決め込むが無関心ではないのだ、無関心ではないことが差別やいじめや虐待や蔑視になり個人的、また集団的なヒステリーになる危険。薄っぺらな倫理観や社会通念的なもので均質にならされている今、この映画の舞台のように、アイスランドの小さな街で全てが剥き出しにされて可視化されたことを、都会で表面的な善意と同調、同調せよ均質であれとの圧力に隠された異物への嫌悪や否定をを強く感じ考えさせられた。
かたや、強烈な悪臭や不快感をあたえるもののそばで食べ物を食べたりするシーンなどもこの映画のトーンを作っていて、明示的な羊の頭の料理、知らぬ間に母親から習った料理など、暗い風景映像の中小難しい雰囲気にならない演出、進行でとても楽しめた、予備知識なくみたが、とても良い作品。