追憶と、踊りながらのレビュー・感想・評価
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愛する人を亡くした悲しみの果てに続く希望の光
ベンウィショーが出演していると言うので楽しみにして映画館に行ってみると何とも驚いた!俳優ってこんなに様々なキャラクターを演じ分ける事が出来るのだから、本当に大変な職業だなと尊敬したくなったものだ。
今ヨーロッパでは移民の受け入れを容認する事を起因として、それぞれの異なる文化・習慣が急激に混ざり合う事で、大きな摩擦を生む事に発展するのではないかと社会問題になっている。
本作も紛争地帯からの移民ではないけれど、異なる人種の者達の恋、更にその恋はゲイカップルと言うセクマイ問題、カミングアウト問題。そして、言葉の理解出来ない国で暮らす年老いた親の介護問題等々、社会問題テンコモリの映画を僅か90分以内で魅せるのだ。
ちょっと欲張りすぎ?と映画予告編を観た時には思ったのだけれども、本編を観たら全く違和感が無かったのには驚いた!
監督は本作への思い入れが強いのか、あっと言う間に映画は終了した!確かに86分は短いか?だが、そのコンパクトな映画は丁度、無駄な贅肉を落とし切ったような鍛えられた肉体美のように、選び抜かれたセリフと無駄を排除し、一つ一つのシーンが効果的に流れていく編集の巧みな演出には本当に驚いた!
これで、長編映画デビューの監督だと言うから、ホン・カウ監督の今後が益々楽しみでならない!そして、我々日本人には山口淑子の「夜来香」と言う名曲が使われているのはより親近感が持てる。主人公リチャードの恋人のカイを演じた新人のアンドリュー・レオンも良いが、何と言ってもカイの気難しい母親を演じたチェン・ペイペイは御見事だ!しかしベンも負けずに繊細な役処を見事に演じ切っていた!
美しい
ベン・ウィショーの演技を始めて見たが、素敵な俳優だと思った。美して、儚げで、なによりこの作品とすごくマッチしている。
映像も色づかいから何まで美しく、俳優たちも魅力的だ。
観終わった後にいつまでも心地良い余韻の残るような、そんな作品だ。
夜来香の追憶。
今作で惹かれたのは冒頭に流れる李香蘭の「夜来香」の旋律と
男同士がベッドに横たわるラブシーンの映像としての美しさ。
言語や文化の異なる男女が軸となるこの作品では言葉が通い
合う分かり易さが殆どなく、たどたどしくもどかしく、苦い。
事故で亡くなった息子の彼氏を毛嫌いし孤独に浸ろうとする
母親ジュンとそんな母親を救おうと足掻く彼氏のリチャード。
自分を拒否する人にどう振舞いどう対話しどう溶け込むかを
繊細に描いている作品だが、それを反対の立場に置き換えて
想像すると分かり易い。もしも自分の息子や娘が同性愛者で、
それを言わずに亡くなってしまったとしたら。頑なに他人を
拒む母親の孤独が高齢者の友人(彼氏)ができたことによって
和らいでいくが、またしても言語と文化の壁が立ちはだかる。
過去の後悔から臆病になる気持ちは分かるが、いつかは対峙
すべき問題で、息子に代わり手助けしてくれる若者がいると
いうことだけでも有り難いものだと素直に受け止めて欲しい。
ちなみに主役のウィショーは007のQにはとても見えない。
美しいラブシーン
李香蘭の唄う「夜来香」が流れ、モダンでシックな壁紙の文様をゆっくりと目で追うかのようなオープニングのカット。ウォン・カーウァイ風味である。ゆっくりと移動するカメラはその後も変わることなく続く。
チェン・ペイペイ演じる主人公のジュンと一人息子が話をしている。そこへ女性職員が電球の交換に来たところで、ベッドに寝そべっていたはずの息子が消えている。
オープニングからここまでのほんの短い時間で、この物語の基礎となる主人公の境遇や大切なわが子を失った事実を、簡潔かつ正確に伝えている。理屈っぽいセリフや、説明的な回想などを全く入れることなく観客に基本情報を伝えることに手慣れた感じがする。
映画にはセックスにおける二組のマイノリティが登場する。一組はゲイのカップル。もう一組は異民族・異文化・異言語でかつ高齢者同士のカップル。息子を失ったジュンは、その外界との唯一のパイプが失われたことで、こうした現代世界を覆う諸問題と同時多発的に向き合わなければならくなった。
ベン・ウィショー演ずる息子の恋人はジュンにそれらの問題を乗り越えてもらうべく様々な手伝いをする。それによって少しずつ変わっていくジュン。映画のジュンへの眼差しが暖かく、こちらも胸が熱くなる。
ところが、ジュンを動かすことになるその熱意がどこから来るのかが曖昧。愛した人の母親だからだろうか。そのあたりにしっかりと焦点をあててくれたら言うことなかった。
ベン・ウィショーとアンドリュー・レオンのラブシーンが美しかった。ゲイでなくともその美しさに見惚れてしまう。私の並びの席にいたそれと思しき男性二人が、そのシーンに息をのんでいたのが印象的だった。
彼の死の追憶とともに
愛していた我が息子の死を悲しむ母、いつまでも一緒でいたかったと悲しむ彼の恋人である男。 お互い違う立場で亡くなった男への気持ちや孤独はどこまで近づけるのか。ラスト、 亡くなった彼の部屋で「彼の匂いがする。」と言いながら、お互い滂沱の涙。息子として 同性愛者の相手として、何にも繋がりがなかったような立場の母と恋人の彼、一つの壁を 乗り越えてお互いが交わることのないそれぞれがそれぞれの「追憶」を携えて生きていくことであろうと思えた。そんな人間の心の襞を上手く描いていると思った。言語と文化の違う二人の会話は、通訳を介さなければ通じないところが、非常に歯痒く感じた。
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