悪党に粛清を : 特集
「王道でありながら新鮮」映画.comも太鼓判を押す──
今、最も高クオリティ作品を生み出す北欧から届いた“本物”のウェスタン・ノワール
デンマークの国民的俳優マッツ・ミケルセン(「ハンニバル」「偽りなき者」)主演作、妻子を殺された男の復しゅうを描くウェスタン・ノワール「悪党に粛清を」が6月27日に公開される。デンマークが誇る俳優、監督、脚本家による南アフリカ・ロケ作品という異色のウェスタンでありながら、王道を踏まえた本格作の見どころとは?

■ドラマ「ハンニバル」で映画ファンの度肝を抜いたマッツ・ミケルセン主演──
今、良質な映画・ドラマの本流は「メイド・イン・北欧」!

2014年カンヌ国際映画祭への正式出品を筆頭に、シカゴ、ロンドンほか、世界各国の映画祭で絶賛を集めたウェスタン・ノワールが登場する。西部開拓まっただ中、1870年代のアメリカを舞台に、ならず者に妻子を殺されたひとりの男の壮絶な復しゅう劇が描かれる。だが驚くなかれ、本作はデンマーク、イギリス、南アフリカの合作映画。米ドラマ「ハンニバル」に主演し、現在日本でもブレイク中のデンマークの国民的俳優マッツ・ミケルセンを主演に、「キング・イズ・アライヴ」のクリスチャン・レブリング監督、アカデミー外国語映画賞受賞の「未来を生きる君たちへ」の名脚本家アナス・トマス・イェンセンというデンマークが誇る才能が結集。ウェスタンの本場=アメリカの手が入っていないにも関わらず“本物”の風格を見事に生み出した、異色かつ注目の作品だ。

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
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
静かに熱く復しゅうに燃える孤高の男を演じるのは、「007 カジノ・ロワイヤル」の悪役ル・シッフルに抜てきされて注目を集め、現在放送中の米ドラマ「ハンニバル」の若き日のレクター博士役で、日本を含めて世界的にブレイク中のマッツ・ミケルセン。「偽りなき者」で、第65回カンヌ国際映画祭男優賞受賞も果たしたほか、デンマーク女王から爵位まで授けられている、名実ともに“デンマークの至宝”と称される人物だ。今、映画ファンの新常識に「ミケルセン主演作は良作」というのがある。それほど彼の作品選びには定評があるのだ。
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
「ドラゴン・タトゥーの女」になった「ミレニアム」(スウェーデン)や、米ドラマ「キリング 26日間」「ブリッジ 国境に潜む闇」になった「THE KILLING キリング」(デンマーク)、「THE BRIDGE ブリッジ」(スウェーデン・デンマーク合作)など北欧が生んだ良作のハリウッド・リメイクがトレンドだ。「ドライヴ」のニコラス・ウィンディング・レフン監督(デンマーク)、「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」のモルテン・ティルドゥム監督(ノルウェー)ら才能の輩出も見逃せない。今や「良作の“旬”は北欧にあり」といえる。
■「いいね、よく分かってる」──思わずうなる要素が満載!
そう、これが“王道”作品を見たかった映画ファンの待望作!
デンマーク発だからこそ、本場アメリカ産以上に本場らしい“王道”要素が詰まっているのが、本作の大きな特徴だ。見ているうちに「よく分かってるな……」と、映画ファン、ウェスタン・ファンならうならずにはいられない、数々のポイントを解説しよう。
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善良な主人公が、ひどい仕打ちに耐えに耐え、最後に怒りを爆発させて復しゅうを果たすという展開は、中国・香港のカンフー映画、日本の時代劇でも人気を博してきた古典的かつ王道のストーリー。本作ではアメリカに移住した元兵士のデンマーク人が、本国から呼び寄せて7年ぶりの再会を果たしたばかりの妻子を目の前で殺されてしまう。家族への愛を貫きながらも、人としての一線を踏み外してしまう男の孤高の戦いに、悲しみと興奮を感じてしまうのは確実だ。
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
クライマックスに控える壮絶なアクション。多くの援軍など望めるはずもない状況で、ならず者の集団に戦いを挑んでいく主人公の姿に燃える。納屋に火を放って敵勢力をかく乱し、兵士として鳴らした射撃の腕を武器に、遠距離からの狙撃で、ひとりまたひとりと敵を排除していく。撃たれた敵が屋根の上から落下するなど、ウェスタンのお約束を踏襲しつつ、物陰に隠れて親玉に迫るゲリラ戦的な戦術が、このジャンルに新鮮さをもたらしている。
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壮大な風景が、見る者を圧倒してきたのがウェスタンの歴史。荒涼とした原野がスクリーンいっぱいに広がるという伝統も、本作はしっかりと網羅している。しかし、ロケ地として選ばれたのは、アメリカではなく南アフリカ。法も情けもない主人公の絶望的な状況を、風景が観客に無言で伝えてくるのはアメリカ作品と同じだが、土の色や乾いた空気感などは、明らかに我々が知っている作品とは趣を異にする。多くの作品を見てきた人ほど、驚くはずだ。
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映画が誕生した極初期から、作品のモチーフとなってきたのが西部開拓時代。ウェスタンは、ストーリーとアクション、スペクタクルな風景が詰まった、映画史を語る上でも外せない重要なジャンルだ。それだけに名監督に与えた影響も大きく、「七人の侍」が「荒野の七人」に翻案された黒澤明監督も、同ジャンルの巨匠ジョン・フォード監督の影響を受けていたほど。アカデミー賞常連のコーエン兄弟監督も「トゥルー・グリット」、クエンティン・タランティーノ監督も「ジャンゴ」と、オマージュを捧げた作品を近年撮り上げている。
■数多のウェスタン作品に精通する芝山幹郎氏は──
この「北欧生まれの本格ウェスタン・ノワール」をどう評価したか?
映画を語る上で外せないジャンルのひとつ“ウェスタン”に精通する評論家、芝山幹郎氏が、「悪党に粛清を」の見どころについて述べた。
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