「脳内をジャックされる映画。」コングレス未来学会議 さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
脳内をジャックされる映画。
ロビン・ライトの号泣アップで、映画は始まります。
"ロビン俺を見ろ。俺が君を愛しているのは知ってるだろ?"
声の主はアル(ハーベイ・カイテル)。ロビンのマネージャーです。アルは続けます。君は選択を間違えたと。
lousy choice!
lousy movie!
lousy man!
酷い選択、酷い映画、酷い男!
君は24歳の子供だったけど、輝く未来へ続く扉がいくつも開いてた。けれどそれを君は、全部ぶっ壊した(字幕なしで見てたので俺流翻訳です)。
それを聞きながら、ロビンは号泣してるんです。
あれ?と思いませんか?役名はロビン・ライトで、女優さんもロビン・ライト。
確かロビンは24歳頃「フォレスト・ガンプ」のヒロイン役で、スターになるんじゃない?と思われたのもつかの間、あの、あの、あの、ショーン・ペンと結婚して子供が出来て、その後も映画に出演するも、鳴かず飛ばず。気付けば44歳。
そう、このアルは、ロビン・ライトのリアル人生を言ってるんです。
別のシーンでははっきりと、「フォレスト・ガンプに出てた」と言われています。
間違いなく、本人役なんです。ロビンのお子さんは、難病を患ってないようなので、この部分はフィクションです。ですが、他は本当のことです。lousy manとか(笑)度肝!
映画会社"ミラマウント"に「もう女優としては旬を過ぎたし、データ保存させてよ。こっちで勝手にデータで映画作るから」って言われてるんです。"ミラマウント……、社名にも、悪意感じますねー!
そう本作はハリウットに対する痛烈な批判が隠されて、いや、全面に押し出されてるんですよ。だって今だって、俳優さんの一部をCGにしてたりしますよね?だったら演技なんかいらんやん?俳優なんかいらんやん?って話です。
ロビンはデータを売って20年後、ミラマウントから「ホテル・ミラマウント」で行われる会議に招待されます。でもそこに入れるのは、「アニメーション」だけ。
ロビンが鼻からすっと薬を吸い込むと、自分自身も周りも、ビビットなアニメ風景に変わります。それも今風なCGではなく、ノスタルジックな手書きアニメーション!凄い!
落ち着く。動きが可愛い。ドン、ドドン、っていう可愛く軽快で、でもどこか不穏なスコアの煽り感も素晴らしい。急にぶわーって、脳内にイマジネーションが広がるのを感じます。大好きなシーンです!
このアニメは「スーパーマン」「ベティ・ブープ」「ポパイ」で、当時はディズニーとアニメ界の双璧だったフライシャー兄弟を模して制作されました。
また世界観は、今敏監督の「パプリカ」「東京ゴッドファーザーズ」からのインスパイアらしいです。なるほどと思います。
あれ?と思いませんか?そうフライシャー兄弟と、映画会社パラマウントの軋轢は有名ですよね?結局パラマウントは、フライシャー兄弟を社から追い出してしまいました。
本作に登場する映画界の"悪"の象徴「ミラマウント社」って、間違いなくパラマウントですよね?
ロビンは会議が行われる「ミラマウント・ホテル」に到着します。
そこには薬を服用した人達が沢山いるんですけど、なんかおかしいんです。
ジョン・ウェイン
マリリン・モンロー
エルビス・プレスリー
フリーダ・カーロ
トップガン姿のトム・クルーズ
みたいな人がいる。
というのもこの薬は、ミラマウント・ナガサキ(日本企業らしい)が製造した新たな娯楽薬で、自分の好きなようにストーリーも創造できて、その中の好きな登場人物になれるというもの。もう映画を作って観客に公開する時代ではない。観客の自由意思で物語りを作ればいい!
だってハリウッド映画なんかストーリーは陳腐で、ほぼCGだろ?制作やめて、ドラッグ作ったらいいやん!ってアリ・フォルマン監督の声が聞こえたような気がしました。
ロビンはある意味ユートピアにいます。でもユートピアなんですが、どこか違和感があって不穏な雰囲気があるんです。
ここから目覚めた!が、しかし夢。目覚めた!が、しかし夢の繰り返し、アニメと実写の使いわけで、現実と幻想の境目が分からなくなる、多層世界に引き摺り込まれます。
そんな中で、ロビンを現実に引き留めるのは息子への愛です。
流れる「forever young」の歌詞が、テーマに深く関わっています。
私はこの曲を勘違いしていました。若くありたい女性の歌じゃないんだ!
久々に脳内をジャックされました!
映画を観てる時は、私の次元でも、映画の次元でもなく、双方の次元が融合して別のパラレルワールドができあがる。そこに私はいるんだ!と、ずっと思っていたんですが、本作のアニメーションパートが、それを表現してくれて嬉しかった!
アリ監督が「誰もがパラレルワールドに生きていると考えています。良い映画とはこの2つの世界を一つにしてくれるものだと思います」と答えていて、やっぱり!分かってくれてる!と興奮しました。
また先日観た「チャッピー」と同じく、死の定義をどこにもってくるか?とか、そもそもそれすらなくなった場合、果たして人生の価値はどう変化するか?
未来を見つめて、考えさせられました。最近、未来ばかり見ています(笑)
本作は、去年「東京アニメアワードフェスティバル」コンペティション部門でグランプリを受賞しましたが、やっとやっと配給会社さんがつきました。良かった!
実はお話した通りハリウッド批判をしておりますので、当然出資は得られず。アリ監督は、イスラエル・ドイツ・ポーランド・ルクセンブルク・フランス・ベルギーで資金集めし、そしたらその国にお金を落とさなくてはいけないので、アニメーションを各国に発注したようです。
当然、絵にばらつきがでます。その調整が大変だったようですよ。
ほんと、配給会社の「東風+gnome」さん、拾ってくれてありがとう!
実はアリ監督には少し思い入れがあります。前作「戦場でワルツを」も衝撃的でしたが、そうではなくて。
「日本でヒットして欲しい。日本にはSFファンも多いし、変な人も多いから」
みたいなことを言ってて、またまた監督分かってるなーと、変人の私は大興奮です。
公開を例の30年待ったハリウッド映画と同じ日にしてるのにも、配給会社さんの気概を感じます(勝手に)。
とにかく、全力でお勧めします!!