「映画とまどろみ」黒衣の刺客 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
映画とまどろみ
中国の武侠ものを美しい映像で綴った。ウォン・カーウァイの「楽園の瑕」と同様、戦い続けることを宿命づけられた人々の姿を、彼らの武闘よりも心理描写に重点をおいている。カーウァイの「楽園」は乾いた砂漠の風景そのものが登場人物たちの孤独や絶望を表していた。この作品では、うっとりとするほどの美しい光景が続き、スー・チー演じる主人公の暗殺者が、女性らしさ、女として抱く男への思慕を捨てきれずにいる心象を表している。
全編にわたり夢のような映像が流れる。ホウ・シャオシェン監督の作品に必ず出てくるの鉄道というアイコンはさすがにこの時代劇には出てこない。しかし、漂泊する人間の心理を代弁するアイテムとして遣唐使という旅人・妻夫木聡が登場する。スー・チーは、異境からやってきた妻夫木に運ばれていくのだ。
このような夢をいつか見たような気がする。そんな不思議な、心地よい既視感を楽しむことができる。ただし、何度も生理的な夢に引き込まれそうになる瞬間があった。映画・まどろみ・睡眠。贅沢な時間を過ごさせてもらった。
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