劇場公開日 2016年7月29日

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「初代を超えた『ゴジラ』映画。」シン・ゴジラ NandSさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0初代を超えた『ゴジラ』映画。

2023年11月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館、TV地上波、VOD

怖い

興奮

知的

前提として
・多分、4回目。
・『ゴジラ』シリーズだと、初代『ゴジラ』(1954)、『ゴジラ』(1984)、『ゴジラ2000 ミレニアム』、モンスターバース版を視聴済。
・庵野秀明監督の他作品だと、『シン・~』シリーズ、『新世紀エヴァンゲリオン』及び『エヴァンゲリオン新劇場版』シリーズを視聴済。
・樋口真嗣監督の他作品だと、『巨神兵東京に現わる』、『のぼうの城』を視聴済。
・尾上克郎監督の他作品はほぼ未視聴。

『ゴジラ』映画として最高かもしれない。初代を超えた可能性すらある。

まずはゴジラ。"進化""生殖ではなく増殖"などのユニークな設定を持ちながら(オタクを惹きつける)、あくまで歩行と自己防衛に徹しているゴジラ。なのに被害がえげつない。初代『ゴジラ』が東京を火の海にしたシーンもオマージュされている上に描写がもっと怖く進化している。しっかり怖い。公開された当時は東日本大震災の記憶もまだ新しかったため、津波にも観える描写、放射線の恐怖、建物の倒壊に緊急避難……などなどトラウマを抉るような演出も多い。
なによりも死人が明確に描写されている。ここ大事。瓦礫の下から見える足とか、逃げ遅れた家族が建物の倒壊に巻き込まれたりとか、内閣総辞職とか……。歩く災害とでも言うべきか。
なので核への象徴という意味では弱い。代わりに他国の人間が核を使おうとする。そこに政治ドラマも絡む。

政治ドラマと書いたが、この作品の肝はゴジラと言うよりも仕事をこなす日本人だと思う。実際、ゴジラよりも時間が割かれていると思う。ここも初代と同じか?
日本の行政システムに文句を言いながらも、着々と仕事を進めていく人間たち。「礼は要りません。仕事ですから」と言うセリフがそれを象徴している。この生き様がカッコいい。あくまで仕事、なのだが一般市民の生活を守るために人生をかける。……日本人にしかウケなくないか?
社会風刺も担っていて、責任転嫁や総理大臣のへっぽこ描写なども多くみられる。「それ、どこの役所に言ったんですか?」とか、フラグを回収しまくる総理とか、トップより優秀な補佐官とか。
ストーリーは、"ゴジラ"という不条理な災害、もしくは神に遭遇した時の、日本政府の動向および職員の葛藤。非常に共感しやすい。かつ、意外とドラマになる。ただの災害だったら、怪獣だとしてもゴジラではなかったら、ここまでのドラマにはなっていなかった。

次はキャラクターについて。濃い。実に濃い。ただ仕事をしているだけなのに、めちゃくちゃ人数も多いのに、キャストの演技力と、短くも的確なセリフですごく記憶に残る。名前はさすがに覚えられない。でもそれで良い。
仕事を終えた後に、個人としての表情が垣間見えるのがまた良い。特徴的なのは尾頭さん。へっぽことは書いたが、総理および総理代理が二人とも歴史に名を残さないような決断・仕事をしているのがまた良い。好きなキャラクター。
あと必要以上に内面を描写したり、同じ職場の摩擦を作ったり、恋愛を入れ込んだり、といった描写が皆無なのがマッチしている。バランス調整が巧い。

エヴァを除いた、『シン~』シリーズでは特徴的なセリフ回し。この作品には実に合っている。情報量過多への対処法にもなっているのだろう。
専門用語の多い難解な説明のあとに、分かりやすく嚙み砕いた状況説明が入る。すんなり頭に入る。非常に良い。というか巧い。

音楽も良い。作戦のワクワク感とかゴジラの恐怖とか、終わった後の安心感とか。オリジナルからしっかりとバージョンアップ。オーケストラ最高!

自衛隊や軍の兵器もまたグッとくる。ここはオタク向けだろう。自衛隊カッケェ……ってなるシーンがたくさん。ついでに電車もカッコいい。そしてゴジラという恐怖がそれを上回る。生理的にヤバい。

キャラの多さや、情報量の異常な多さ、個人間の関係が全然変化しない、ゴジラのグロテスクな進化要素、めちゃくちゃ熱量のこもった作戦……などなど作品のバランスとしては歪と言ってしまっていいはず。なのだが、それが最高に面白い。社会現象になったのは、災害の後というのも大きく影響しているだろうが、それ以上の化学反応を感じた。初代『ゴジラ』のリスペクトを忘れずに、ここまで偏った傑作を作るのは至難の業だと思う。

初代『ゴジラ』を超えた、傑作。ただ、時代で風化しないかどうかだけ心配。そんな作品。

NandS