劇場公開日 2016年7月29日

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「21世紀の日本でこそ作れたゴジラ映画」シン・ゴジラ ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)

3.521世紀の日本でこそ作れたゴジラ映画

2016年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

21世紀の日本だからこそ作れたゴジラ映画。
正直、見る前までは期待してなかったのだが大したものだ。
ただ特撮好きのアニメオタクが模倣で作ったゴジラではない。
過去のものとも、そしてハリウッド版とも違う。
現代の日本だからこそのゴジラを、一級品のエンターテインメントとして形にできている。

まぁぶっちゃけ、ゴジラはかっこよくない。
造形も微妙だし、あんまり動かない。街中に立ってる姿はどこか間抜けだ。
変に“特撮”にこだわっているのか、ところどころの街の破壊のシーンもチープ。
キマった絵としてのシーンは、ハリウッドゴジラと比べると地味で安っぽい。

しかしながらこの映画の本質はそこではなく、ゴジラを自然災害として捉え
それに立ち向かう人間の群像劇を描いている点がある。
そしてそれがこれまでの凡百の映画と一線を画しているところが、ひたすらに
日本的、日本人的であるのだ。

映画の大半は政治家どものやり取りで占められている。
そこには日本の政治や官僚組織への皮肉も多分に込められていて、それが面白おかしく描かれている。
しかしながら決してそれを悪として描いていないのだ。

平凡な、踊る大捜査線みたいな作品ではこうはいかないだろう。
あきらかに無能で性格が悪い、組織の悪の部分を抽出したみたいなわかりやすいキャラクターを作って
それに対して正義の主人公たちが反旗を翻して鼻をあかす。
わかりやすさを求める視聴者はそういうのを見てスッキリするのだろうが俺は嫌いな展開だ。
脚本を書く人間もきっと楽だろう、単純な善悪構造で群像劇を描くのは。
でも現実の社会はそうではない。

シン・ゴジラでは、繰り返すが日本の旧来型の縦割り組織への強い皮肉が込められている。
でも、そのシステムやそこで働く人物を、ただの無能な悪いものとして扱っていない。
主人公たちは日本の政治の、会議をしなければ何も進まず、責任を誰も持ちたがらない
リスクを徹底して犯さないようにする在り方に苛立ちつつも
「仕方ないものだ」と割り切って、そのシステムの中で最善を尽くそうとする。
自分の正義を振りかざし、命令違反の独断行動など決して起こそうとはしないのだ。
核攻撃に対しても主人公達の嫌悪感は強く描かれるものの、その手段自体は
合理的なものであるという理由付もしっかりなされていた。
ちょっとおまぬけに描かれる総理大臣はじめ各大臣もコミカルな言動をさせつつも
それぞれが決してなにも考えてない木偶人形には描かれていない。
それぞれから滲み出るのは責任感である。
また、主人公勢の描かれ方も素晴らしい。完全な悪がいない分、主人公らも
不自然な善玉キャラになっていない。アクの強い面々は、一人の生々しい人間として
キャラ立ちしているというよりも、映画の中で動くコマとしての
“記号として”のキャラ立ちがしっかりなされている。

かくして描かれたのは、たくさんの魅力的なキャラクターではなく
“日本の行政組織”というまとまったグループであり、この映画では
『日本政府vsゴジラ』というこれまで描かれなかった対立軸でゴジラとの対決が描かれるに至った。
とても新鮮な気分で見ることができた。

シナリオ面での過度な演出が徹底して排除されている点も良い。
主要人物の家族との愛やら、東京都民と政治家との間の絆とか、自衛隊と米軍との友情とか
普通の映画だったらくっさいワンシーンを使って強調するところが一切なされていない。
それゆえに、非常にフラットに、リアリティのある、白も黒もいりまじった
“日本政府”という掴みどころのないものを描くことに成功しているのだと思う。
まぁそういうわかりやすく盛り上がるシーンが好きな人間からすれば
本作は地味な一作だと感じたかもしれない。

少なくとも自分には、このテのネタを使っているにも関わらず、特別政治思想的に
どこかに極端にブレていないように思えるところも好印象だ。
たびたび米軍および米国への批判がなされているが、結局全体通して
米軍の協力がなければ成立しない作戦が立てられている。
また自衛隊にしても、作中でその出動と武器の使用を慎重なものだとしつつも
愛国心などという陳腐な言葉を使わせず匂わせず、演説シーンでも戦意を高揚させてりもせず
「仕事ですから」の一言で命懸けの任務にあたる自衛隊はとてもリアルで、そしてかっこいい。
そして自衛隊の兵器群がこんなにもクローズアップされた映画がかつてあっただろうか。
アパッチなぞ、たいていの映画では曲芸のようにぐるぐる飛行してミサイルをぶっぱなすが
常に無線で指示をうけながら、美しい隊列を組んで、まさしく組織として戦うアパッチや戦車は
これまでの映画になかったカッコよさがある。

けっして初見ではわけのわからない専門用語の羅列で会話を進めているのにストレスに感じない塩梅もお見事。
在来線の電車爆弾も馬鹿っぽいけど好き。

ただ最後、ゴジラに口径で薬を飲ませる最終作戦はあまりに間抜けで無理がある…。
まるで歯医者の患者のごとくおとなしく薬を注入されるゴジラってのは無理があるのではないか。
クビをちょっと動かしたり、口を閉じるだけで詰むじゃないか。
もっと他になかったのだろうか。

ヨックモック