「これだよ、観たかったのは。」シン・ゴジラ ゼリグさんの映画レビュー(感想・評価)
これだよ、観たかったのは。
まず、僕は別にエヴァが好きでもなんでもない、逆にちょっと苦手な、根っからのゴジラファンなのですが、この作品は良く出来てると思いますよ。
ゴジラファン達が怒り狂ってますけども、初代ゴジラからの「続きもの」を観て育った方々が、先入観無しには観られないのも無理はないでしょう。
もう「ゴジラはこういうもんだ」というイメージが固まっちゃってるんですよね。
しかし、ひとつ疑問なんですが、ゴジラ映画とはどういうものなのかと問われた時に、ファンが羅列する言葉は、この作品に当てはまらないものなのでしょうか。
もちろん、ゴジラがヒーローのように扱われた昭和シリーズに愛着がある方々が、本作のゴジラに拒否反応を示すならわかります。
けれど、熱線を吐き、街を蹂躙し、砲撃をものともせず、人々を恐怖に陥れる様は、紛れもなく「ゴジラ」じゃないですか。これ以外に何を求めるのでしょうか。
街に上陸したばかりの、あの醜い姿が気に食わない、ゴジラを侮辱しているという意見もわからなくはないですが、それこそ先入観でしょう。
別に映画開始時点でムキムキじゃなきゃいけない、なんて取り決めはゴジラ映画に無いですし、恐竜から進化しなくちゃいけないなんて決まりもないでしょう。
なぜ、監督がわざわざゴジラを「劇中で徐々に進化」していく生き物に設定したのか。
作劇するなら、成長しきった状態でも問題無いはずなんです。僕はここで引っかかりました。
ゴジラは状況に応じて、その形態を変えていきます。
海にいれば魚のような生物、陸へ上がれば両生類、順応すれば二足歩行になり、さらなる成長によって直立します。
資料によれば、体の様々な部位に「不定形で未熟な新組織」が生成されている途中のような造形をイメージしたらしいです。
そして、人類の度重なる攻撃により、生命の危機に瀕し、やがて絶命したゴジラ。
ラストシーンはそのゴジラの尻尾が映されるのですが、そこには「怪獣」とは似ても似つかない「人型」の何かが生まれかけ、絶命していました。
なぜ人型なのか。
完全生物がやがて行き着く先は「人間」という事なのでしょうか。
あのラストシーンが示すものが「人間の方がよっぽど恐ろしい怪物だ」という事なのか、それともただ単に「人類が怪物に勝利した」という暗示で「人類の力が勝った事により、巨大な姿より生きやすい人類の姿になろうとした」という事なのか。
頭の悪い僕には、監督の意図を正確に読み取るのは難しいのですが、どれかはたぶん当たっているんじゃないでしょうか。
何にせよ、あの意味深なラストシーンの為に進化させる設定にしたのは、まず間違いないと思います。
話は変わりますが、この作品には異様なほど「感傷」というものが欠けています。
矢口が被災地で手を合わせるシーンは印象的ですが、それもさっさかさっさかとカットが変わるため、さほど感傷的とは思いません。
首相や政府関係者の死をはじめ、あれだけの市民の被害を描き、明らかに震災を意識した作品であるにもかかわらず、やけにあっさりしすぎているのです。
登場人物達の家族も一切描かれません。
最初から排除されているのです。
災害というものは、いきなりやってきます。
それに伴う人の死というものもまた、あっけないものです。
しかし、弔っている暇もなく、次々と問題は起こります。
悲しむよりも、生き延びた者が、これ以上大切なものを失わないよう、前を向いて問題に立ち向かう事の大切さを、監督はあっけなさを前面に出す事によって、描きたかったのではないでしょうか。
グダグダと考察を書いてみましたが、個人的な好みとしては、ほとんどの場面において、オッサン(お兄さん)達の顔のアップばっかりだったので、ちょっと画面が暑苦しかったです。
しかし、法律の文章を画面いっぱいに出すのは面白かったですね。
最初から読ませるつもり無いでしょうし、絶対いらないですもんね、あれ。
特撮に関しては文句無いです。
あれでCGが粗いなんて、ほんと最近の人は目が肥えましたね。怖い怖い。
確かに着ぐるみも愛してますが、無機質な感じが出ていて、逆にCGで良かったと思います。
熱線を背中と尻尾から出した時は驚きましたが、別に口だけで出さなきゃいけないって事は無いですもんね。
このなんでもありな感じ、嫌いじゃないです。
人の事言えないですが、僕も完全なる先入観で言わせていただくと、ムートー推しで来たギャレゴジで、少なからずがっかりした僕が観たかったのは、これなんです。
背筋の凍るような「ゴジラ」の恐怖。
僕にとって、ゴジラは人類の敵、あえて嫌な言い方をするならば、要するにただの化け物なんです。
けど、地球上で最強の、ただの化け物ってめちゃくちゃカッコイイじゃないですか。
そして僕が本当にやってほしかった事。
人類の二度目となる、ゴジラへの「完全なる」勝利。
昔は個人の力で。今は皆の力で。
それを見せつけてくれたこの作品を、貶すはずがないです。
文句なんて付けられません。
ゼリグさん、返信ありがとうございました。
もう3回目鑑賞とは!
拙文と謙遜されますが――いえいえいえ、あの後
『クリーピー』のレビュー読ませていただいて
顎が外れました。まだその辺に転がってます、顎。
何者ですか貴方は(笑)。
今回のレビューと併せて感銘を受けた次第。自分も
少しでも追い付けるよう精進しなくてはです。
『vsビオランテ』はあのデザインも最高ですけど
テーマも深かったですよね。「今」と「未来」を
テーマにし続けるからこそ、ゴジラも時代と共に
進化し続けるんでしょう。むしろそうでなくては。
すぐ長文になるのが悪いクセなのでこの辺で。
重ねて返信お気になさらず。
またちょくちょくレビュー覗かせていただきますね。
お邪魔しました。
ゼリグさん、はじめまして。
浮遊きびなごと申します。
今回のゴジラの姿形についての意見、そしてシリーズ
としての位置付けについての意見、全く同感です。
ネタバレ無しで書く為に泣く泣く削りましたが、
ゼリグさんの方がよほど掘り下げられた説明に
なっていたので溜飲が下がる思いです。
僕は『~VSキングギドラ』から入り、中学になって
ようやく初代『ゴジラ』を観て衝撃を受けたクチ。
個人的には、ハリウッド版がVSシリーズに近い形を
取った以上、今回が原点回帰のような形となったのは
むしろ自然な流れだったのではとすら思います。
人により色々な理想のゴジラ像があるでしょうから、
賛否あるのは仕方がないにせよ、最初から
スタッフが気に食わないから貶すような
レビューが散見されるのは寂しい限りです。
あ、最後のアレの解釈についても成程と唸りました。
色々と妄想がはかどるラストでしたね……
(色々書くとネタバレなのでここまでに。)
とりあえず自分と非常に近い想いのレビューを
読めて嬉しかった次第です。返信お気になさらず。
それでは!