「ファンタジーと現実」バケモノの子 SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
ファンタジーと現実
何展開もあるので、体感的に4時間くらい、2作品観たかのような感じがした。
前半は普通に面白い。千と千尋に似ているのは、あえてだろうか。同じモチーフを、俺ならこうやる、という挑戦なのか(気のせいか、バケモノの観客の中に宮崎監督のそっくりさんがいたような…)。
千と千尋では、子供が観客であることが想定された、子供の成長物語が描かれた。千と千尋の中には、大人はどうであるべきか、という視点はなく、それが無い、ということは、監督は大人に無関心、もしくは何も期待していない、ともとれる。
しかしバケモノの子では、むしろ育て親である熊テツの成長物語とみなせる話になっている。親ははじめから親らしくなければいけないということはなく、子供と共に成長していけばいい、という監督のメッセージが込められている気がする。また、親を周囲から支える人間や地域環境の重要性も語られている。
これだけの話だったら、面白いがありきたりな映画なんだが、キュータの人間の世界への復帰の話も混ざり、人によってはすごく奇妙な感じを受けただろう。
奇妙というのは、ファンタジーものとも現実ものともつかない展開だからだ。ファンタジーもののお約束は、ファンタジーの世界と現実の世界は、はっきりと扉を隔てて区別されていなければならない。
キュータの境遇は、「社会から隔離されて育った子供」の社会復帰に関する、リアルな社会問題を思わせる。こうした子供がどのような手続きが必要か、どのような道があるか示されているだけでなく、役所の「悪い対応の例」「良い対応の例」まで丁寧に出して、問題提起している。
ファンタジーでありながら、いきなり生々しい現実が乱入してくる感じは、「雨と雪」でも感じた。もしかしたらこれが細田監督の持ち味なのかもしれない。個人的には、奇妙なゾワゾワする感じがするだけで、好きとも嫌いとも感じられない。
後半の、一郎彦を倒すくだりは、正直よく分からなかった。胸の穴だとか、その穴が凶悪な力を持っていること、熊テツが「心の剣」になってキュータの胸を埋め、一郎彦を倒す力になったことなど、なんだか納得感がうすくて、無理やりっていうか…。
いわゆる「読者おいてけぼり」状態かなー。精神的な負の感情が、実体を持つとか、物理的な力を持つとかは、たぶんよっぽどうまくやらないと、中学生が考えたセカイ系みたいな話になっちゃう。
後半でのキュータとかカエデのセリフが、イタい厨二病のセリフに聞こえてしまうところも多々……。
ゲド戦記と寄生獣が混ざった感じの話だなー、と思ったけど、胸の穴の埋め方は、寄生獣みたいな方法だったら良かったのになあ。
でも、子供の頃の強すぎる負の感情に、精神的に成長したはずの大人になっても振り回されてしまう、という苦しみや残酷さは本当によく分かる。
それを魔法的な力に象徴したものではなく、きちんと人間ドラマとして見せてくれたら良かったなー、と思った。