「チャーミングさは、生き抜いてきた証」あん prishouさんの映画レビュー(感想・評価)
チャーミングさは、生き抜いてきた証
ふと、これはドキュメンタリーだったか?樹木希林さんって、昔、ハンセン病を患っていたのか?と錯覚する。
樹木希林さんの卓越した演技力や、河瀬直美監督独特の演出のなせる技なのだろう。
それにしても、こんなにチャーミングなおばあちゃん、現実にはお目にかかれないので、やっぱりフィクションなんだなぁと思う。桜に手を振る姿が、忘れられない。
ハンセン病はもともと感染力が弱く、戦後間も無く治療薬も手に入るようになり、隔離する必要性はなくなったにもかかわらず、政府の誤った隔離政策や、神経に作用し「見た目」に後遺症が残ることなどから、未だに残る偏見や差別。
そんな社会問題に翻弄された人生を生き抜いてきた老女・徳江(樹木希林)の仕草や言葉は、ユーモラスで、軽い。
どら焼きを食べながら親の不満を言う中学生たちに対して、徳江は「好きなようにすればいいじゃない」「嫌だったら、出て行けばいいじゃない」と笑顔で言い放ち中学生に笑われるが、自由を奪われ続けた彼女の生い立ちを思うと、涙が滲む。
桜の木や、小鳥や小豆に話しかける様子は、あまりに酷い仕打ちをする「人」よりも、自然や小動物に思いを寄せざるを得なかったのかな、と思う。
どら焼き屋で働けることになった時や、接客を許された時などの、徳江の嬉しそうな表情といったら!
隔離され、自由を奪われ、偏見や差別をされ続けた彼女に教わる、生きることの意味。
ずっと大切にしたい作品です。
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