劇場公開日 2015年5月30日

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「生まれてきた意味。生きている意味。魂の浄化。」あん とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5生まれてきた意味。生きている意味。魂の浄化。

2020年2月12日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

幸せ

萌える

心の中に巣くう恐怖。
感染病に対する、手っ取り早い処置・隔離。
特効薬が開発される前まで死病だった結核。
赤痢・コレラ・天然痘…。
身近に感染者が確認されれば、保健所に呼び出され、検査させられ、感染し、他への感染可能性があるとなれば、隔離され、関わる場所が消毒される。
インフルエンザ他でも、出席停止・出勤停止となり、”家”に隔離されて、感染拡大を防ぐ。
感染方法が明確になる前のエイズ・HIV。
そして、今コロナ・ウィルス…。
命を守りたい。死への恐怖が、行動を激化させる。
加えて、ハンセン病は、身体の変化がその恐怖に油を注ぐ。
 そんな、種の保存として当たり前の思いと、
 人として生きることへの思い、
 そしてこれだけ皆がググって情報を得られる時代にも関わらずの無知・偏見
 がベースとなって、物語が展開していく。

ある事情から、強制的に生き方を定められてしまった徳江さん。
ある事情から、自分で自分を籠の中に押し込めている千太郎。
ある事情から、”自由”なはずなのに、”自由”になりきれないワカナ。
 この3人がより糸のようによりあって、物語が進む。

亡くした自分の子を千太郎に投影する徳江さん。
亡くした母を徳江さんに投影する千太郎。
失くしかけている家族を、徳江さんと仙太郎に見出しているワカナ。
 本人たちも自覚していないふんわりとした疑似家族。

人生は悪いこと、思いもよらぬこと、思い通りにならぬことだらけ。
 生まれてくる家族も選べないし、罹患する病も選べないし(生活習慣病を除く)、良かれと思ってしたことが仇になることもある。
それでも時折、遭遇する楽しいこと・すてきなこと。
手間暇かけて、面倒な積み重ねの果てに作り出せる美味しい時。

はまってしまった環境の中での、それぞれの思い・ふるまい・日々の生活。
そんな営みを、世間の人はわかってくれなくても、お天道様が、お月様が、木々が、風が、畑からのお客様(農作物)が見ていてくれる。
 徳江さんの作るあんのようになれればいいけれど、何にもなれなくっても、そこにいるだけでいい。

映画は、確かにハンセン病患者を扱ったものだけれど、
それよりも、千太郎のいら立ち・号泣とともに、魂が洗われていくような気になってくる。

これだけでも、号泣なのに、
市原悦子さんが出てきただけで、さらに涙が出てきた。
二大女優の競演。
もっと見ていたかった。
合掌。

原作未読。

とみいじょん