「黙っているべき?病気のサンドラ」サンドラの週末 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
黙っているべき?病気のサンドラ
あまりもぎりぎりの生活。
家族のひとりが病気になるだけで、たちどころに一家の平穏は傾く。
鬱病を抱えながら復職を求めるサンドラの2日間です。
「週末」といってもリゾートとは正反対の物語でした。
カーラジオが鳴る・・
「すべてが台無し
途方に暮れる
この世界には
たくさんいるはず
私のように今夜孤独な人は
悲しくて死にそう
ひどい世界よ
何も考えず眠りたいだけ
タバコに火をつける
暗いことばかり考える
どうして夜はこんなに長いの・・」
連戦連敗。
車中でサンドラと夫のマニュがラジオのつまみをひねり上げて大ボリュームで聴くシャウトです。
泣き笑いしながらふたりで歌い、でも曲の終わりで再び黙り、疲労困憊のふたり。
「お給料」って、その人の価値じゃないはず。
労働への対価でしょう?
でもそのお給料の枠に合わせて人間は人生を設計するし、その額が幸せを左右するのも本当なんだよなぁ。
つまり手取りの額面が限りなく、ほぼその人の人生のサイズとイコールなの。
そしていつしか自助という「働かざる者喰うべからず」の世からの圧力の凄まじさ。
つまり「無職・失業者・無収入者」イコール「無価値な人間」という烙印の怖さ。
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明らかに病気の目のサンドラが、うつ病の薬をがぶ飲みしながら同僚の家を一軒一軒当たります。
まさかの直談判で、自分の復職を頼み込み。これはひるがえって言えば、目の前の同僚に
「あなたの減給を飲んでくれ」
「私の代わりにあなたが退職してくれないか」と頼み込む正常とは言えないような強烈な自己主張なんだけれど。
週末=土曜日と日曜日の行脚です。
病気でなけりゃあ口に出来ないストレートな欲求(笑)と、こちらに詰めよってくる圧迫感たるや!
・居留守したい。
・月曜日は有給とってサンドラに会いたくない。
・膝がガクガク震えてくる。
・サンドラのノックが近づいてくる。
・ドアをこじ開けてくる。
でも同僚たちは、はっきりと自分の考えをサンドラに嘘なく伝える。
さすがフランス。
マリオン・コティアール
ドレスとメイクで決めれば、それはそれはゴージャスでセレブリティな彼女が、やつれて素っぴんの失業者を演じていました。
夫役のマニュは仕事を抜け出しながら、早退しながら、精神を病む妻の格闘を支えていましたよね。僕はずっとこの夫のマニュの思いと表情から目を離せずにいました。
僕は、
僕の過去ですが、お金を渡すべきだったのか、無心してきた昔の職場の元同僚を思い出す。今でもチクチク思い出す彼女の、目を疑うほどのやつれた顔と、ガタガタの歯と、口臭を思い出す・・
外で働いていると、共倒れが怖くて助けてあげられない人に出会う機会もあって、
知人、友人、そして時には肉親さえもシャットアウトしなければならない場合もあって。
そんな貧困なこの世の中の構造に苦しさと怒りを覚えます。
自分の限界に歯がゆさを覚えます。
安心して失業も病気も老人になることも出来る世の中になるべきなんです。
「私も働きたい」というサンドラの言い分は我が儘じゃないですよね、
病んでいるのは社会のほう。そこ、治さなければならないと思います。
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【付記】
為末大のコメントです、長くなりますが、
“女の話は長いのでオリンピック組織委員会での女の発言、自己主張には困っている”旨の、御説を失言なさって首になられた森義郎会長。元総理大臣という名士。
その彼の“女を黙らせようとする男の同調圧力”について為末がコメントしました(以下)
「女性差別というよりも、マイノリティーの人たちが会議で感じる息苦しさが、全部『わきまえないといけない』という発言に集約されている。私はパラスポーツに関わった経験から、会議場に車いすで入ってきた人が、時間がかかることを理解している。日本がパラリンピックに力を入れている中で、(森氏は)同じ感覚でパラリンピックも見ているのかな、と」
(毎日新聞Web版2021/2/9 )
↑これを読んで、ハッと思い出したことがある、
コロナで東京五輪を縮小コンパクトにする方向になったとき
「ならばパラリンピックは中止ですね」とサラッと発言した委員がいたと。(氏名失念)。
障害者はわきまえないといけない、
=鬱病のサンドラもわきまえないといけない、我慢して黙っているべきだ、周囲の人間もサンドラを黙らせるべきだ=
という優性思想の悪魔性が、ふとした時に公人からも暴露されるわけだ。