「何に対する怒りか」怒り 食いしん坊22さんの映画レビュー(感想・評価)
何に対する怒りか
登場人物たちは、それぞれ何に対して怒っていたのか。整理してみたいと思いました。
宮崎あおい⇒彼を信じきることができなかった自分に対して。
妻夫木聡⇒彼を信じることができなかった自分に対して。
沖縄の高校生⇒「お前の味方だ」と言った森山に裏切られたと感じて。
森山未来⇒直接的には派遣会社の担当の冷笑だが、自分が生きる社会そのものに対して。麦茶一杯差し出されて凶行に及んだのは、単なるきっかけであって、理由では無いと思います。
広瀬すず⇒怒っても訴えてもどうにもならない世の中の不条理さに対して。
Mizさんのレビューを見て、なるほどと思いました。けれども引っかかったこともあります。それだけの頭を持った森山が、初めの一人を殺した後、なぜ生き返ると思って待ち続けたのかということです。つまり、理性を取り戻したのに、なぜ知性を取り戻さなかったのか。後の彼との整合性が見えません。
森山が、怒りをコントロールできない爆発型の人物だということは分かります。しかし、そういった人物というのは、はっと我に返ったときに、まともな精神状態に戻るものです。その際には理性と主に知性も。それなのに、生き返ると思って一時間待ち続ける。しかも帰ってきた二人目にまで刃を向けるとは怒りの継続時間が長すぎると思うのです。爆発型は、怨恨型に比べて、激しさは強いのですが、そこまで激しい怒りを持続しないはずです。
民宿での森山は、爆発型の方をよく表しています。客の荷物を投げているところを優しく咎められていくうちに気が落ち着いてきて「ごめん」と収まる。それでも夜に爆発して壊しまくるが、はっと我に返って、二階に自分の荷物を取りに行き、二階から逃げる。怒りの終わりに知性と理性が戻ってくるんですね。
最後の場面、Mizさんの解釈では森山が少年に自分を殺させた。怒りを引き出させたとありますが、確かにそうだなと思います。ですから、人物像における怒り表現のつじつまがあわない点は、制作側のものかなと感じてしまいます。
細かい点をごちゃごちゃと書きましたが、とても考えさせられる名作でした。