「超暗い気持ち」怒り みーさんの映画レビュー(感想・評価)
超暗い気持ち
誰に対しての「怒り」なのか、考えながら観ていました。自分に対して、家族に対して、恋人に対して、友達に対して、赤の他人に対して。
沖縄の人たちは基地に対して、社会に対して怒りがあったと思うし、
アイコのお父さんは昇華できない怒りを自分に向けることで他の感情と折り合いをつけているように見えたけど、それって本当はアイコに対しての怒りでもあったと思うし、、、
だけどどれも結局、どうしようもない。誰も怒りを晴らしてくれない。むかつくやつを殺しても怒りは収まらない。だって、死ぬほど嫌な気持ちになる怒りって、もっと色んな感情が絡まっている。そういう怒りがここでは描かれているようでした。
苦しいとか、辛いとか、悲しいとか、そういう気持ちも全部が怒りになるんだ、というのがぼんやり自分の中に思い出されたのは、事件の犯人と動機がわかったとき。
犯人は軽蔑されるべき人間だけど、その怒りは、本当はみんなの怒りと同じ色をしているような、もともとは同じものだったような、いやむしろ正反対であるような、犯人の持つ陳腐な怒りと対照的であるような、そういう、どの怒りも矛先が曖昧で、宙に浮いている、というイメージの総括として事件が着地していて、よかったです。あの事件の動機にストーリー性があっては、映画の方向性が変わってしまうので………
そうして人と人が擦れ合って怒りが生まれ、でもそれは相手を信頼していた証拠で、信頼するから裏切られて、信頼するから傷つくのだけど、それでも信頼するのがやめられない、
特にそう思わせる結末になった、ふたりのゲイの恋物語で最後締めてくれたのが、少し救われたような気持ちになりました。
親子の話、恋人の話、友達の話と3種類あったけど、どれも共感しにくい設定とシチュエーションの中、誰もが見覚えのある感情や感覚を呼び起こされたのは、俳優陣の、眼差しや声にまで渡る上質で繊細な演技の素晴らしさにあったと思います。
さて、しかし妻夫木くんと綾野剛くんの濃厚ラブシーンは見ものです。もう一回見ちゃおっと。
カップルで来ている人の、このあとのデートの雰囲気が心配になるような、暗くて重くてちょっと引きずる映画でした。素晴らしいです。