「信じることも疑うことも間違いじゃない」怒り もたそさんの映画レビュー(感想・評価)
信じることも疑うことも間違いじゃない
原作未読のまま鑑賞したため、所々取りこぼしや解釈違いがあったかもしれないけれど、私は良い映画だったと思う。
鑑賞後、多くの登場人物達の中で渦巻く「自分の力ではどうしようもできないことへの怒り」が自分にも降りかかってくる…
そんなもどかしさが残る映画(腑に落ちなかったという意味でない)。
登場人物が多いのにごちゃごちゃした印象がない。
2時間22分で3つの舞台が繰り広げられているのにも関わらず、それぞれに流れる時間の密度がそれ以上に濃く感じた。
長い映画飽きやすい方なのに引き込まれっぱなしで2時間半があっという間だった。
また3つの舞台のつなぎ方がブツ切りでなくセリフや小道具伝いで自然な切り替わり方が序盤に多くあってなるほどなぁと思った。
(愛子のイヤホンの派手な音楽→優馬がいるプールのBGM、愛子と田村がお弁当についての会話→直人がコンビニでお弁当を見てる など)
信じたいのに信じることができない、そんな人の強さと弱さによって3舞台それぞれ違った結末を迎える。
愛子はたった一人の田代を取り戻す事ができたけれど、
優馬は大切なものが多すぎて母の死に目に立ち会えず直人とも2度と会えなくなってしまう。
田代には味方になってくれた人が結果的にはできたけれど、
辰哉は味方となってくれた田中に裏切られた。
それぞれの登場人物が信じた道が、ここまでハッピーエンドとアンハッピーエンドで極端に別れてしまうとは… 千葉のストーリーが正解というわけじゃないし、誰も正解とも不正解とも言い難い。
ただ3舞台に共通して言えることは、自分あるいは大事に思う人が幸せになるためなら、世間から白い目で見られようと、人を信じることも疑うことも間違いじゃないということ。
唯一分からなかったのが、あの殺人犯は何がきっかけであんな事件を起こしたのか。
ので、いろんなレビューを見てああそういうことかと思ったのが「格差社会への憤り」。
日雇いのバイトで食いつないで行くしか生きる道がなかった犯人からしてみれば、不自由なく暮らす被害者とは住む世界が違うし嫉妬心(そんな生易しくない)しか芽生えなかったのだろうと思う。
自分が存在しているだけで誰かの怒りを買ってしまう、あるいは自分が強烈な嫉妬心を抱いてしまう可能性が、ゼロとも言い切れないのかも、と思うと格差社会怖くて仕方ない。。
一番印象に残っているのが優馬と直人がお墓について話すシーン。
優馬はごく日常的に交わす冗談みたいに話していたのかもしれないけれど直人にとっては冗談でなく割と現実味を持って話していたのだな…
死ぬのも悪くない、とか隣ならいいかなとか冗談と本気が入り混じる会話も、直人にとっては心安らぐ一時だったのだろうなと思う。優馬に出会えて…本当によかったね…
1回目の鑑賞は、3人共疑っていて犯人は誰なのかという視点で見たけれど、
2回目は疑惑をかけられていた2人はこの時何を思っていたのだろう、犯人の言葉はどこからが本心でどこからが嘘なのか
と切り口を変えて鑑賞できる。
感じ方が変わると思う!2回観ることおすすめ。