「普遍性な題材」怒り いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
普遍性な題材
『信じ切る』という一点においてテーマを絞って三つのストーリーを同時進行していく、群像劇とはちょっと違う進め方(クロスオーバーは無いが三編を結びつけるのは殺人件を追う警察)で観客に訴える作品。どんどん場面展開され、スイッチ的にシーンが入れ替わる。
これでもかという主役級の俳優達が豪華に演じているのだが、イスラエル帰りの森山未來の演技が後から糸を引くように印象を残している。ネタバレだが、結局沖縄編の森山が殺人犯人だったのだが、狂気の爆発やそのメンタルの移り変わり、感情の起伏等々が常人では理解しがたい人間として演出されている。なので正直一つも感情移入ができないし、理性的にも理解し難い。置いてきぼりを食らう程、突っ走るのだ。ピエール滝演じる刑事に語る犯人の同僚だった男の説明もかなり難解ではある。プライドが高い人間が施しを受けることの屈辱があれほどの非道を起こし、しかしそれでも普段の生活に紛れ込める事実。それはまるで二重人格の説明でしか分からないパラノイア。もう少し丁寧な説明が必要だったのだろうかと思うのは小生だけか?確かに、民宿の宿泊客の荷物をぞんざいに扱う場面から段々と狂気が見え隠れしてくるシチュエーションは恐ろしさを醸し出してきたのだが・・・ 殺人現場に残され、そして無人島の瓦礫のあばら屋の壁に彫られた『怒り』という文字。世間を信用できなくなった男の歯止めの利かぬ苛立ちは殺されることで成仏できたのだろうか・・・
他の二編は沖縄編を盛り上げる為の悲哀の物語だと推測する。ハッピーエンドとバッドエンド。最後の終わり方で人生の悲喜こもごもを上手く演出する意図なのだろう。
東京編の妻夫木聡のヤンエグのゲイの演技は興味を引かれた。勿論その世界に興味があると言うことではなく、昔のゲイの世界のムサ苦しさや汚さみたいなものがかなり排除され煌びやかなセレブ的世界を演出しているところは常識を覆される内容である。
千葉漁港編の宮崎あおいの箱ヘルの部屋でのぐったりとしたうつぶせ寝は、今までの過酷な出来事を思い起こさせるかなりエグいシチュエーションだった。