「ライク ア ホース」オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 nok0712さんの映画レビュー(感想・評価)
ライク ア ホース
アイヴァンは建設現場の基礎コンクリートにおける現場監督を任されており、約10年に渡って築き上げた実績は彼の信頼を揺るぎ難いものにしていた。
ヨーロッパ史上最大級の高層ビルを支える基礎工事の現場監督もそういった実績が実ってのものだ。
一方家庭では愛しい妻と二人の息子に囲まれ、その夜もサッカーの試合を家族一緒に見る約束となっていた。
しかし、何かが起きた。
アイヴァンはある決意を持って現場を後にし、BMWに乗り込む。
彼の向かう先は、事務所でもなく、コンクリートの製造会社でもなく、家族の居る家庭でもない。
彼は全てを捨てるつもりでロンドンのある病院へと向かっていったのだった。
アイヴァンは何を求めていたのか。
今現在の生活を全て捨ててまで乗り越えなければ、向かい合わなければ、正さなければならなかったものとは何だったのか。
彼はロンドンへの道すがら3つの事態に向き合うことになる。
出産間近の浮気相手。
明朝開始される基礎工事の準備。
浮気をしていた事を知らされた妻と、その雰囲気を察した息子。
相手の顔も見る事ができない状態で、アイヴァンは携帯電話一つを頼りに彼らと一つ一つ丁寧に、完璧に向かい合っていった。
彼にはどうしても負けたくない相手、否定しなければならない相手、全てを捨てて訣別をしなければならない存在が居た。
父親だ。
彼は父親の不誠実さ、現実逃避、「Locke」という名を汚したことを許せなかった。
その存在を完全否定すべく彼は遠くロンドンまで車を走らせたのだった。
終盤、息子のエディが今夜のサッカーの話をする。
普段はどうしようもない選手が今夜ゴールを決めたそうだ。
足元にボールをトラップし、ドリブルで敵ディフェンスをくぐり抜け、味方にパスをすることもなく、前に出てきたキーパーにも動じずゴールを決めた。
まるで馬のようだったと。
それと同じような男が居た。
数々のトラブルに一人で対応し、家族や同僚の言葉も聞かず、遂にはロンドンに辿り着いた。まるで馬のように。
勝負に勝って、試合に負けるという言葉がある。
彼はその逆だ。
一つ一つの事態は収束させたが、家族、仕事、家全てを失った。
父親との試合には勝ったが、人生の勝負に負けたのだ。