「人生は“間違いの楽園”。何度でもリライト」Re:LIFE リライフ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人生は“間違いの楽園”。何度でもリライト
落ちぶれた脚本家が田舎の大学で脚本を教える。
ユニークな話だが、業界人からすれば結構あるあるなんだとか。
賞を貰ってもてはやされる。それも最初の内。鳴かず飛ばずが続くと、干され始める。久々に来た仕事は脚本の仕事ではなく、(劇中の主人公の言葉を借りれば)負け犬の仕事…。
主人公のオスカー脚本家、キース。
若くしてオスカーを受賞。受賞作『間違いの楽園』は未だ多くの人に人気。
が、典型的な“一発屋”となり、15年もスランプ続く。
久々に脚本の仕事が来たと思ったら、そのプロデューサーは「昔はファンだった」。おまけにあれこれ客媚び注文。
妻には愛想尽かされ、離婚。仲良かった息子とは疎遠。破産寸前、人生崖っぷち…。
そんな時舞い込んできた、脚本を“教える”という仕事。
有難や、救いの手!…と感謝しなけりゃいけないのに、キースはヘンなプライドがあるようで。
こんな下らん事やってられん。
やる気ナシ。初日はほんの数分で終了、生徒たちに一ヶ月の自己学習を課す。
人付き合いも下手。自分では面白いと思ってる皮肉ジョークもただ相手を不快にさせるだけ。ウ○ル・ス○スのビンタは免れたが、怒らせたのは厄介な相手。
でも何よりいきなりやらかしちゃったのは、着日早々、生徒である女の子に手を出しちゃう。その後拗れ、彼女はかなり気の強い性格なもんだからこれまた厄介。
女たらしで女運無く。
いい男に見えて、ダメダメな性格。
優柔不断。頼り気ナシ。ピントのズレた慢心。ちょいナル様。
ヒュー・グラントの妙演。
ハマり役!…と言ったら本人に失礼だけど、困り顔演技がいちいち笑わせる。
展開はすぐ分かる。話的にはベタ。
当初はやる気ナシだったが、次第に教える仕事にやりがいを感じ始め、自分の人生も見つめ直していく。
そのきっかけが、生徒たちの脚本。事前に学科長から渡された生徒たちが書いた序盤30ページの脚本。
読んでもいなかったが、いざ読んでみると、これがなかなか。不出来な点も多々あるが、磨けば光るものがある。
その才能に嫉妬すらも。が、着眼点、発想、何より自分が書きたい事…生徒たちの脚本への真摯な向き合いに刺激を受ける。
改めて気付く。自分も昔は…。
ちゃんと教えるようになって暫くして、生徒たちの要望から『間違いの楽園』を書くに至った経緯を話す。
元々は、実父が亡くなってから死に対して恐怖を感じるようになった息子を癒す為に語っていた自作のおとぎ話。
息子との思い出話。
そうなのかもしれない。傑作とは自分の人生からの決して忘れぬ大事な1ページ。
しかし、そんな息子ともいつの頃からか…。
ようやく仕事も上向きになってきた時、トラブル発生。
例の教え子との関係、数々の問題行動が槍玉に挙げられ、失職の危機。
これに対しても煮え切らない態度。甘んじて受け入れる覚悟。
生徒たちへの教え、交流は…?
息子に対してもそう。こちらから電話しないのは、嫌われてると一方的に思ってるから。
人生そう上手く“第2幕”は書けない。
もし、“第3幕”の“アイデア”があれば…。
生徒の一人の脚本が映画会社に売れる。
同伴し、柄にもなくアドバイス。
その時気付く。一抹の嫉妬もあるけど、それとは全く別の気持ち。
教え子が認められ、羽ばたいて行こうとする。それに携われた喜び、嬉しさ、誇り。
最初は嫌々だったのに、身を投じてみたら、後進を育てるとはいいもんだ。
教え、受け継いでいく。そうやってどんな世界も回っていく。
キャストも好演。
何と言っても、最年長生徒のマリサ・トメイが魅力的な事! 脚本に熱い思いがあり、頑張るママであり、一人の女性としても色気たっぷり。彼女との“その後”も想像させる、大人のロマコメである。
J・K・シモンズがスパルタ鬼教師から一転、家族の話に秒で泣く学科長役でハートフルに。
監督のマーク・ローレンスとヒューは本作で4度目のタッグ。ベタながら心地よい充実感に浸らせ、『トゥー・ウィークス・ノーティス』に続く好編。
直談判し、教師として残る事が決定。
再び生徒たちと書き始める。
そして、電話の相手は…。
人生失敗しても落ちぶれても、リライト出来る。
第1幕、第2幕、第3幕…意欲失わなければ第4幕だって。
それが可能な人生=『間違いの楽園』。
新たな物語を書き上げていこう。