ヴィンセントが教えてくれたことのレビュー・感想・評価
全22件中、21~22件目を表示
ヴィンセントが教えられたことに男泣き
『ロスト・イン・トランスレーション』あたりから頗(すこぶ)るいい俳優になってきたビル・マーレイの新作『ヴィンセントが教えてくれたこと』。
老人と若者(この映画では子ども)の関係を描いた映画といえばクリント・イーストウッドの『グラン・トリノ』が思い出されるところだけれど、この映画ではポスターのデザインからもアラン・アーキンが印象的な『リトル・ミス・サンシャイン』を髣髴とさせます。
この映画、前半は、老人が子どもにオトナの世界を手ほどきするハナシなのだけれど、途中から映画の趣旨は180度転換します。
偏屈で身勝手なヴィンセントには、毎週訪れるところがある。
それは、介護施設。
そこには、認知症を患ったひとりの女性がおり、ヴィンセントは医師のふりをして訪ねている。
おいおい、彼女がヴィンセントの妻だとわかってくる。
そして、ヴィンセントの若い頃も窺い知れる。
彼はヴェトナム戦争の帰還兵。
アメリカが「正当を主張」して行った戦争に、「疑いもなく」参加し、その中で上官の命を助けた。
その後、現在に至るまで、どのような暮らしをしてきたかは、この映画では描かれないが、そこそこ事業でも成功したことと、いつくかのトラウマがあることは短い台詞の中から察することができる。
つまり、ヴィンセントは、いわゆるアメリカでフツーの、等身大の、ほかのみんなと変わらない、老人なのだ。
しかし、アメリカという国は老人には優しくない。
そういう環境で、世を拗ね、スポイルされて、偏屈で身勝手になってしまった。
ほんとうに、どこにでもいる老人なのだ。
それがわかってくると、180度転換する映画に心を打たれます。
原題は「St. VINCENT」(聖人ヴィンセント)。
ほら、あんなに世を拗ね、偏屈で、身勝手だと思われていた老人だって、とてもいいひとじゃないか、とオリバーが気づいて、ヴィンセントを救ってあげる。
そんな映画になるのです。
いやぁ、クライマックスでは男泣きしました。
身勝手だ、偏屈だ、って、それは男の鎧なのよ。
男だって救ってほしい、救われるとありがたい。
そんな、男にやさしい映画なのです。
エンディングのタイトルバック、ボブ・ディランの『Shelter From The Storm(嵐からの隠れ場所)』の歌詞「嵐のときにはシェルターに隠れなさい」が、これまた心に沁みました。
味わいとしては、身勝手な父親が理解できなかった息子の気持ちを理解して救われる『君が生きた証』や、銀行屋として窮屈な生き方をした父親を娘が救う『ウォルト・ディズニーの約束』に近いものがあります。
全22件中、21~22件目を表示