「ヴィンセントに伝えたいこと」ヴィンセントが教えてくれたこと 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ヴィンセントに伝えたいこと
お酒に煙草に競馬好き。
借金まみれの自宅で愛猫と一人暮らし。
嘘に罵り言葉で、周囲からの嫌われ者。
偏屈でひねくれ者の初老の男、ヴィンセント。
絶対にこんな人とご近所さんになりたくない!
…ところが、ご近所さんになってしまった引っ越してきた母子。マギーとオリヴァー。
早速揉め事が起きて、第一印象は最悪。
見るからにひ弱そうなオリヴァーくん。
案の定学校でいじめに遭い、定番の体操着帰宅。私物の中に携帯や財布などが入っており、母親に連絡する術が無い。
そこで、恐る恐るお隣さんに助け船。電話を貸して貰う。
ヴィンセントは電話を貸す。嫌々そうに。
マギーは病院で働くシングルマザー。今すぐ仕事から帰れない。そこで、お隣さんの家で預かって貰う事に。
ヴィンセントは預かる。嫌々そうに。
マギーが迎えに来て驚き! 面倒見料や飯を食わせたからその料金を支払わせられる。
ま、シッター料金と思えば…。
その日から、マギーの仕事が終わるまで、放課後のオリヴァーの面倒を見て貰う事になる。
“シッター料金”は貰うが…、ヴィンセントは嫌々そうに。
ヴィンセントの“シッター”はテキトー。
一応車で学校まで迎えに行き、宿題やらせ、飯を食べさせるが、後はシッターらしい事はしない。
が、ヴィンセント並みに気難しい愛猫がオリヴァーに懐き、それは彼も認める。
ヴィンセントの“シッター”は破天荒。
いじめられるオリヴァーに喧嘩の仕方を伝授する。
競馬場やバーに連れて行く。
ばったり出くわしたヴィンセントと親しい“夜の女”。ダカ。
これも社会勉強の一環…?
ある日ヴィンセントは、毎週欠かさず通っているある場所へオリヴァーを連れて行く。
偏屈者だと思っていたヴィンセントの意外な一面を知る。
皆が言うほど、悪い人じゃない。
学校で再びいじめに遭ったオリヴァー。が、ヴィンセントから伝授された喧嘩の仕方で、反撃!
それで相手を怪我させてしまう…。
元夫からオリヴァーの親権を巡って裁判を起こされるマギー。
学校での喧嘩や、競馬場、バー、“夜の女”…ヴィンセント絡みの事を徹底的に突つかれ、結果、共同親権に。
ヴィンセントへ怒り爆発のマギー。
ヴィンセントも嫌みで返す。
ヴィンセントの“シッター”はこれで終わり。
どうしてもお金が必要になったヴィンセント。オリヴァーの為に開いた口座から勝手に微々たるお金を引き出し、一発逆転の競馬!…が、結果は言うまでもない。
さらに、競馬の仲介高利貸しから脅迫催促。
そんな時、ヴィンセントは脳卒中で倒れてしまう…。
退院してきた彼を、悲劇が襲う…。
ユーモラスだけど、クセがあってひねくれ者。もうこの手の役はビル・マーレイの十八番。でも単にそれだけじゃなく、抜群の名演、味わい深さ。
そんなヴィンセントと度々対するマギー。演じるはメリッサ・マッカーシー。名コメディアンvs当代きってのコメディエンヌ!…と思いきや、メリッサは意外にも抑えた演技を見せる。
寧ろ、いいアクセントになっているのはナオミ・ワッツ。ヴィンセントが唯一心を開く妊娠中のロシア人ストリッパーの“夜の女”で、あっけらかんとした好演。
そして本作のもう一人の主人公、オリヴァー役のジャスティン・リーバハー。何と可愛らしい純粋でいい子! でもこの後、怖~い怖~い『IT/イット』の世界へ…。
ヴィンセントの愛猫も好演。
先に『ドリーム』を見たが、監督のセオドア・メルフィは本作でデビュー。ヒューマン・コメディやハートフル・ドラマの名手になりそう。作品は監督の家族や親族の実体験が基。笑えて、泣けて、しみじみ心に染み入るのはそれ故。
脳卒中で倒れたヴィンセントを見つけたのはオリヴァー。
危ない所で命は助かる。
マギーの働く病院に入院し、徐々に回復。つまり、いつものヴィンセントに。リハビリも。オリヴァーやダカもちょくちょく見舞いに。
晴れて退院。退院した彼を襲った悲劇とは…。
妻サンディの死。
ヴィンセントには妻が居たのだ。施設に入院している。
そして妻の存在が、ヴィンセントがお金にがめつい理由でもある…。
妻サンディは重度のアルツハイマー。もうヴィンセントの顔すら分からない。
それでもヴィンセントは8年間も毎週欠かさず通い続け、妻の衣類を洗濯していた。
以前オリヴァーが競馬場やバー以外で連れて行かれたある場所とは、ここ。
そこで知ったヴィンセントの意外な一面…いや、本当の素顔。愛妻家。
施設への支払いが滞納し、退去が命じられ、どうしてもお金が必要だったのだ。
そんな時…
ヴィンセントが脳卒中で倒れ入院している間、妻が…。
妻の遺品を棄てる。
もうシッターが無理なヴィンセントからオリヴァーに最後に一言。
「俺みたいにはなるな」
偏屈でひねくれ者で嫌われ者。さらに愛妻を亡くし、孤独に…。
このまま自ら命を…?
バカ言え! 彼はヴィンセント。
ダカと共に、新しい人生を歩み出そうとする。
オリヴァーのクラスで、課題。
“私の周りにいる聖人”
でもまず、聖人って…?
偉い人。
立派な人。
尊敬出来る人。
犠牲を厭わない。
クラスの皆は歴史上の偉人や両親を紹介する。
超意外な人選。オリヴァーが紹介した“聖人”とは…。
“聖人”の事を馴染みの人たちから話を聞く。
嫌われ者なんて言われてるけど、実は案外皆、彼の事が好き。とてもいい人、と言う人も。
若い頃はベトナム戦争へ。勲章を貰ったほどの英雄。
サンディと出会った。幸せな日々が続いたが、愛妻をアルツハイマーが襲い、もう覚えていなくても献身的に尽くした。死別するまで一途に愛した。
もう一つのトピックスは、一人の少年の面倒を見てくれた事。
色々教えてくれた。
喧嘩の仕方。聖人は闘っている。
競馬にバー、“夜の女”との付き合い方。これらはちゃんと二十歳になってから!
最初は嫌々だった。でも、
勇気、犠牲、慈悲、人間性こそ、聖人の証し。
今再び、多くの人に祝福されながら、愛されながら。
皆さん、ヴィンセント・マッケンナをご紹介します!