「St. VINCENTという タイトルに繋がる 秀悦なオチ。」ヴィンセントが教えてくれたこと 年間100本を劇場で観るシネオさんの映画レビュー(感想・評価)
St. VINCENTという タイトルに繋がる 秀悦なオチ。
昨年、全米でわずか4館の限定公開から、
口コミで2500スクリーンに拡大。
そして興収4400万ドルの
スマッシュヒットを記録して、
ゴールデン・グローブ賞に
作品賞と男優賞のWノミネート!
こんな材料がそろったら、
もう観に行くしかないよ。
ビル・マーレイは
「ロスト・イン・トランスレーション」以来
パッとしなかったけど、
キャリアは確かに重ねていたね。
少年とダメ老人がふれあう、
ヒューマン・コメディ。
よくある題材だし、
アメリカ人はこういうの好きなんだなぁ
なんてくらいにしか思ってなかったけど、
いやいやこれがかなりの名作だった。
久々に見るビルは、
すっかりじじいで
お腹も出てハゲちまってたよ。
朝から娼婦と遊び、
呑んだくれで、金もなく、
ギャンブラーで、
セコくて自分勝手なヴ老人ィンセント。
観客には
ちっとも共感できない
頑固でイヤミオヤジな主人公を、
等身大のように演じていく。
シングルマザーの
少年オリバーと絡んでも、
なりふり構わない。
けどじわじわと感じてくる
ヴィンセントの魅力が、
中盤から観客を引き込んでいく。
ここで描かれている人物は、
アメリカでよくいる人たちだ。
軍で活躍したのに、
今じゃ仕事もなく理解者もいない。
孤独に押しつぶされそうな
毎日を送っている老人。
旦那から逃げてきて、
働きづめなシングルマザーと、
何もかも悟っている少年。
そんな設定で
米国スライスオブライフの
切ないリアリティがせまってくる。
脇役の名演も、
映画の奥深さを作り出している。
ナオミワッツの、
妊娠した娼婦がうまい。
さすが演技派女優だ。
こんな汚れ役をきっちりこなすプロの仕事に、
ため息だよ。
少年役はなんとデビュー作なようだ。
難しい立ち位置の役柄を、
丁寧に演じていた。
大好きなテレンス・ハワードが、
チンピラ役で出てたのも嬉しかった。
50年代から80年代の、
ヒットチューンも素敵。
少年がいじめっ子を倒した時に流れた
ザ・クラッシュのI Fought the Lawはスカッとしたし、
ラストカットでの気ままな時間で、
ボブ・ディランの
Shelter From The Stormも良かった。
一貫してヴィンセントの
好きな曲という設定なんだろう。
演出のカメラ割りや構図も、
いろんなところで工夫されているし、
俯瞰カットが多いのも、
いいアクセントになっている。
最後の秀悦なオチで
「St. VINCENT」の
タイトルの意味が分かる。
やられたーという良い裏切りの後で
感動が押し寄せてくる。
この映画のビルも、
バードマンのマイケルキートンも、
同世代だけど、
自分をさらけ出した
素晴らしい演技をしてるなぁ。
ふたりの次回作が楽しみだよ。