劇場公開日 2015年4月10日

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「正気と狂気の境界線を行き来する幽鬼マイケル・キートンに痺れる作品。」バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0正気と狂気の境界線を行き来する幽鬼マイケル・キートンに痺れる作品。

2015年5月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

怖い

非常に良かった。

特筆すべきは境界線を曖昧にし続けた演技・演出・構成。
現実と非現実の境界線。
正気と狂気の境界線。
画面に映し出される全ての要素が物事を明確に線引きせず、常に曖昧な部分を残して結論を出し切らない。
境界線を行き来する不安定で刺激的な展開に序盤から惹き込まれました。

境界線の曖昧さが特に目立つのがリーガンの控室。
本作は彼が控室で独り過ごす場面と、外に出て周囲の人間に翻弄される場面に分かれていますが。
周囲の人間に翻弄される場面を“原因”としたら。
控室でリーガンが独り過ごす場面が“結果”に。
第三者の目が無い中、リーガンの主観で進む控室の時間は。
現実と非現実、正気と狂気の境界線が常に曖昧で観る側も翻弄されます。

翻弄され続けた末に。
或る場面でスッと作中のルールが破られ。
……曖昧だった境界線が“完全に”線引きされる。
その瞬間を過度に盛り上げない呆気無さ、或る種の上品さに痺れました。

その後は凄まじい速度感と共に傾斜を駆け降りる怒涛の展開。
濁流に呑み込まれ圧倒される中、迎える一つの結論。
予測される結論に至ったことに、至ってしまったことに深く息を吐きました。

そしてエピローグとも言える終盤も終盤。
これまでを一新する雰囲気の中で挿入される或る場面のインパクト。
絵面の馬鹿馬鹿しさにも拘らず、それが意味することを理解して。
最後の最後まで翻弄される作品になっていました。

正気と狂気の境界線を行き来する幽鬼マイケル・キートンに痺れる本作。

話題になっている全編ワンカット風の撮影手法。
これまで観たことが無いモノを観ている興奮と共に。
事態が明確に切り替わらない違和感もあり、境界線を行き来する曖昧さを維持し積み重ねる作用もありました。
繋ぎ目を馴らしたエマニュエル・ルベツキの手腕に只々圧倒されました。

正直、話自体の目新しさは比較的少ないですが。
その見せ方、魅せ方が非常に新鮮でグッときます。
オススメです。

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Opportunity Cost