「現実と虚構の間」バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) rockoさんの映画レビュー(感想・評価)
現実と虚構の間
初めの一時間は正直言ってあまり好きじゃなかったです。アメリカ人の苛立ったおっさんたちが怒鳴りあうシーンが長回し(もどき)で延々と続き、疲労、フラストレーション、衝突しているおっさんのダンディズム的な雰囲気だったので、長回しもどきがとにかく重く感じられました。今までそういう映画は山ほどあるので、芸術映画気取りで、またか、という感じでした。
ただ後半は秀逸で、前半でイマイチ映画の中で存在理由のわからなかった破天荒な俳優の主張(ストイックなまでに舞台にリアリティーを求める姿勢)が、主人公の人生の中で実現していく。その過程がまるで「ブラックスワン」のように、意図と無意図の間で、極限状態の中で奇跡的に実現する。現実が虚構に侵入する、もしくは虚構が現実に侵入するというとても奇妙な現象、そしてそこに一瞬の芸術のひらめきを求めること、それがこの映画の意図だと思います。俳優として生きるゆえに、家族を顧みず、人間としての自分の人生はただの空洞だったと嘆く主人公に、それがあなたの人生だった、現実だったと励ます元妻の言葉がそれを物語っているように思います。芸術とそれ以外の芸術に類似した表現、例えばデザインや漫画などの大衆文化との違いは、作者の現実がいかに如実に再現されているか、ということだと思います。逆に言えば大衆文化でも芸術の高みに消化される可能性は十分にあり、昨今ではその境界線の探り合いが盛んにされているような印象を受けます。
この映画は、「ブラックスワン」の極限状態に一瞬きらめく真実の美、「君と歩く世界」での、虚飾のないリアルな物語性、そして「ゼロ・グラビティー」での長回しによる体験としての映画、を思い出させます。
それにしても、イニャリトゥ監督といい、クアロン(ゼロ・グラビティ)の監督といい、知る人ぞ知るアルトゥーロ・リプステインといい、ギレルモ・デル・トロといい、メキシコからはかなり優秀な映画監督が出てきていますね。