アメリカン・スナイパーのレビュー・感想・評価
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意味のある逡巡と思いたい。
まずどうでもいい話から。
中盤で、クリスが車屋にいてる時に声をかけてきた退役軍人役の人(義足の人)が、ジョナサン・グロフでした!こんなところでお目にかかれるなんて!と、感激しました。
(ジョナサン・グロフはドラマgleeのジェシー役の人です。彼の歌うボヘミアンラプソディは鳥肌ものです。)
以上、個人的な喜び発見でした。すみません。
✳︎閑話休題✳︎
人間は三種類に分けられる。羊、狼、番犬。お前は狼から羊を守る番犬たれ。このように父に育てられたクリス・カイルが主人公です。
生まれはテキサス。保守的な地域です。
クリスも愛国心の強い、カウボーイに育ちました。
テレビで見たアメリカ大使館爆撃事件から祖国を守る軍人を志します。
厳しい訓練の末にイラクへ派遣され狙撃手として敵を撃って撃って撃って撃って…その功績からアメリカの英雄となりますが、一方でその体験によって患った、強烈なPTSDに苦しんだ、というお話です。
揺るぎない愛国心というやつがない(理解できない)私は、クリスへの共感は湧きません。
湧かないながら、クリスの人間性を否定できないという気持ちになりました。
史上最高の祖国!とか、蛮人から仲間を守る!とか、わたしの苦手な思想が中核にある人物ながら、その「蛮人」を撃つことで心身を蝕まれていく二面性に説得力を感じたからだと思います。
妻のタヤの心配のほうに共感するかなと思いましたが、そうでもなかったのです。
確かに妊娠中の電話越しで夫が戦闘に巻き込まれたなんて、気の毒すぎて胸がつぶれそうではありました。
が、彼女のいっていることが、対岸の火事だからそう言えるのでは?と思えてしまいました。
夫の殺人行為と精神の崩壊に守られて、あなたと子供が生きていられるのに、と、心の端っこで思ってしまいました。
でも、タヤの言うことが正論でもあるし、私だってそう言うよな、とも思ったりもしました。
私自身への非難も込めて思うのですが、人殺しになる覚悟がない人が、誰かがやってくれた殺人を経た、幸せだの平和だのを享受しておいて、戦争なんてだめよと言い切るのはおかしいように感じます。
もちろん戦争がないほうが、いいのは明らかですが、人は意見の違う人を殺して殺して殺して、歴史を作ってきたのです。
それ以外のやり方を人はまだ発見できていないのに、戦争反対なんてどうして言えるのか、いう権利がないのでは?と、思ってしまいます。
でもそうでない道を目指すのもまた正しいと思います。人を殺し続けてきた歴史が生んだ悲劇を後の世では繰り返したくない、という願いは、正しいはずだとおもいます。
でも、でも、でも、と、相反する考えが渦巻き、自分の意見をまとめられません。
戦争と平和を思う時、このようにいつも逡巡し、では何をすればいいのかが、なにも見えないまま、日常に流されるのが、パターンです。
進歩がないなぁと情けなくもありますが、考えないことよりましだと言い聞かせて、これからもうじうじ考えるつもりです。
映画の話に戻ります。
クリスは遂にアラブ側の敏腕狙撃手を撃った後、除隊します。
すっかり心を病んだクリスは医者にかかったり、退役軍人の自助グループに参加したりしながら、PTSDから立ち直ったようです。
この映画の不満は、退役後の葛藤に尺が取られなかったことです。
そこが過酷な戦闘を描くよりも重要なのでは?と思いました。
でも踏み込めない理由があったのかもなぁ、と、無音のエンドロールの間にぼんやりと考えました。
そこに踏み込むと、傷つきすぎる人が多いのかもなぁと。
アメリカ側からの視点しか出てきていませんが、アメリカの万歳!アラブは敵!といった、プロパガンダ的なものは感じず、そういった意味での作り手がしゃしゃり出てくる映画にはなっていないと思います。良作です。
個人的には、音楽で悲しみや恐ろしさなどの感情を揺さぶってこない演出がとてもありがたかったです。イーストウッドさんグッジョブです。
過酷な映像と感情を揺さぶる音楽のコンボで攻めてくる映画は、心臓に大変悪く、苦手なもので。
蛇足ですが、汚い言葉をいう人物が多いなと思いました。訓練中の上官の言葉が特に…そこはげっそりしました。
緊張の連続
画面に吸いつけられたように見てしまいました。スナイパーのとてつもない緊張感が伝わってきます。主人公と一緒に血圧が上がって、一緒にホッとしてました。
その一方で奥さんから詰られるシーンは、身につまされましたね。日本のサラリーマン戦士も一緒だよなあと思いながら、同じようなことを自分自身も妻から言われことを思い出していた。
今だからこそ見て欲しいと反戦ものではありますが、その才能があったばっかりに職業がたまたまスナイパーになってしまった、哀しい男の人生が描かれています。典型的すぎるアメリカ人としての描き方が、またその哀しさを助長する。アメリカであるが故に始まった間違いと矛盾について、アメリカであるが故にそれに苦悩する姿が哀しく見えてしょうがありませんでした。
しかし、その苦悩から脱却しようとする姿は彼のユニバーサルな人間性が出てきており、ちっともアメリカらしくないところは好感が持てますが、それでもハッピィエンドにならないところは、アメリカの実話ですね。小市民的な日本人からすると、敗北感一杯です。
ほんと、クリントイーストウッドはザ・男が好きですね。戦争ものでも、栗林かクリスカイルか。クリスカイルをヒーローとして描いてるのか、少し茶化してるのかはよく分からないけれど、弱冠の批判精神を感じてしまうのは私だけ?日本人だからなんですかね。アメリカ人には、この描き方はどう見られているのでしょうか。
イマイチでした・・・
ワタシ的にはイマイチでした・・・
ブラッドレイ・クーパーがやっぱりあんまり好きじゃなかったのが影響したのかな・・・
クリスの心の傷をもう少し深く描いていただけたらなぁと思ってしまいました。
戦争に殺されたカウボーイ
前作がトリッキーな作りなのに、そうは感じさせなかったのが逆に「凄い!」と思ったが、今作はいつものイーストウッド。
いつもの、というのはストーリーをシンプルにして人物のみを描いてゆくところで、必要でないものはいっさい入れない。過剰な音楽も派手なカメラワークも、そして、“こうだ!”というメッセージとかも。これみよがしなところは絶対にしない。いつものイーストウッド。『アメリカン・スナイパー』はそんな映画だ。
カウボーイという日本でいう侍と同じ強さの理想を心情とする主人公が現実の“戦争”によってどう変化してゆくのかをだけを描いているだけだ。
だけだ。だけど「それで充分じゃないか」がはっきりと伝わってくる。そして、それはまだ「終わっていない」のだ。
伝説の男は戦場での体験と今の生活に折り合いを付け始めた頃、戦争の影に殺される。
エンドロールの無音は「終わっていない」ことへの問いかけなのだろう。
良い映画、その一言だと思った。
私は観た後に気分が落ち込むことはなかったです。なんといった言葉です表現したら良いか難しいけれど、人間の葛藤や、後悔が感じられる良い映画だと思いました。
ただ、赤ちゃんの演出の一点が、アメリカ映画にしては手を抜いたのか?と感じられる所がありました。そこは、一緒に観ていた人も同じ意見でした。
復員時の虚脱した目と、戦場に戻った時の快活さとの落差が怖ろしい。“...
復員時の虚脱した目と、戦場に戻った時の快活さとの落差が怖ろしい。“強くあれ”とアメリカイズムを叩き込まれたレッドネックのカウボーイが空回りする日常を離れ、真に“番犬”である事ができる戦場に麻薬のようにのめり込んでいく。
一部のシーンを除いては…
全体的に重くて暗い映画でした。
戦争の恐ろしさと悲しさが良く表現されていたと思います。
実話の映画となると、のめり込み方がまた違いますよね。
でも、一部かなり気になってしまったシーンがありました。
他でもかなり話題になってますが、ブラッドリー・クーパーが赤ちゃんを抱いてるシーンです。
赤ちゃんが明らかに人形!!
しかもクォリティの低い人形!!
たった20ドルで作られた人形だそうです。
悲しいことにブラッドリー・クーパーが赤ちゃんの手を動かしてまるで本物かのように見せていましたがバレバレでした。
射殺のシーンがものすごくリアルだったので、そういう部分で手を抜かれるとかなり萎えてしまいます。
いろいろ大人の理由があるとは思いますが、もう少しリアルな赤ちゃんの人形を使ってほしかったです。
あと、最後になぜクリス・カイルが殺されたのかの説明書きを付け加えても良かったと思いました。
無音のエンドロールは斬新で良かったと思います。
劇場で観たなら、是非パンフレットも
是非パンフレットも買って読んで欲しい。関係者達がどの様な思い、考えでこの映画を作ったのか、様々な視点で書かれた読み応えのある内容となっているので勧めたい。
私的備忘録
横浜ムービル
珍しく混んでいる。40人はいるか。
Waner Bros
アザーンの声から始まる。
手榴弾を持ってひそひそ近づく子供を打つや打たざるやのシーン。一度途切れる。
牧師の説教に続いて、父が説く。
人間には三種類
羊=ばか
狼=悪党
番犬=狼を倒すもの
ロデオで家を空ける男から気をひくために妻が浮気。
タンザニアとケニアで米大使館攻撃。
テレビ「我々の敵は未だ不明」
厳しいシールズの指導シーン。
「黒人は泳げないくせに」「指導官、テロリストを殺したいです!」
水温13度わ浴びる。
「南部の荒れくれ男」
質問に答えるたびに酒を飲む。という。シールをバカにする女、国を思うシールズ。
ここで9.11のニュース!
そして結婚。結婚式にて出陣が決まる。ワロ。「6週間で帰れる」
第一次派遣
冒頭の途切れから接続。
「間違えて打ったら軍刑務所いきさ」
しかし子供も女も米兵への攻撃姿勢を努力、シールズは撃ち殺す。
兵士も葛藤している。残酷だと。しかし同僚は海兵隊が10人殺されていたかもしれないと慰める。ありがちだ。
車に乗った自爆テロをすんで止める。
人を撃つたび軽く落ち込む。
ベトナム以来の最大の攻撃、アメリカに恥をかかすな。アルカイダNo.2ザルカウィをやれ!
突入!
「私はシャイフだ!子供は英語が話せない!!」⇨捕虜にして事情聴取する。ザルカウィについて教えるから金をくれとシャイフは要求。
敵のアルカイダにも敏腕スナイパーがいる。
ドリルでシャイフ息子の足をぐさり。シャイフが助けをこうて、近寄り打たれる。「米軍と話すやつは殺す!」とシャイフ息子の頭もドリルでぐさり。byアルカイダ
スナイパー一時帰国。
第二次派遣
弟「敵をたくさん殺したって。兄貴はヒーローだ!」
新司令官「俺は反逆者の歴史を研究してきた。反逆者に勝つには奴らの信念を潰すことが必要だ。蛮人ども叩きのめせ」
俺たちは正しいのか
悪を倒せ
悪なんていない
祖国が攻撃されてもいいのか
⇨わかりやすい二項図式を言葉にしてて、アメリカ映画とは本当に俗だ。
米兵を歓迎すると見せて床に武器を隠し持つ主人。イラク刑務所か死を選ばせ、死んだようだ。亡骸を掲げてデモる暴徒たち。
突撃!いつも通り、敵への命中は虫けらが死ぬかのような描写である。うあ"といつもの声をあげたおれるのみ。
アメリカで車工場のドリル音を聞いて、思い出すアメリカンスナイパー。体は帰還しても、心は上の空なのでたる。
帰還兵の悲劇を描く。足がない。それだけならマシだ。心がなくなってしまう。
妻「戦争で影響を受けない人はいない」
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第三回派遣
アルカイダスナイパーにも妻も子供もいる。アルカイダスナイパーは元オリンピック選手である。部屋に写真が飾られている。
シールズが初めて被弾!
シールズの報復魂に火がついた!
シールズ初の戦死!マーク。
本国の追悼セレモニーは荘厳である。星条旗に何かを包んで、母に手渡す。
命は助かったが顔を打てれたピグルス。「彼女には別れろといったんだ、でも別れないって」。復讐をちかうアメリカンスナイパー。
⇨つなぎが雑だろ?
妻「いかないで」
夫「君たちを守っているんだ」
妻「違うわ」
戦地でピグルスの訃報。
RPG戦士を射殺。子供が近寄り拾おうとする。「拾うな、拾うな!」とスナイパー。子供はRPGを捨てた。
遠い遠い遠い所からアルカイダスナイパーをついに射止めた。「ピグルスが喜ぶぞ!」
スナイパーが潜む屋上目指して、敵が一斉に動き始める。激しい銃撃戦。
QRF?がなかなか来ない。そして砂嵐到来。何も見えなくなる。
QRFがきた!ギリギリ乗り込んだスナイパー。
帰国後のバーベキュー。子供に戯れる犬に暴行。心に傷か。「蛮人を殺しただけ。神に誓って正しいことをしたと言える。それより仲間を救えなかった。」
心理療法を受ける。傷痍軍人のタウンミーティングにでてみる。慰問施設に行ってみる。
冗談の多い夫を見て
妻「昔のあなたに戻ってよかった!」
⇨クリス・カイルはのちに慰安施設で殺されるというのが実話。
エンディングはその星条旗に彩られた沿道、スタジアムで大々的に催される追悼式。実にアメリカ愛国的ラスト。
棺をポンポンと二回叩くのが最後のお別れの合図らしい。
米軍映画として、いつも通りの駄作だ。なんとかご贔屓にみても、やはり二元論的にしか見えない。
それにしても、イラク統治と日本統治が重なって見えてしまった。日本占領時には、ああいった米軍がたくさんいたことだろう。今よりひどかったんじゃないかと思う。
見事
見事としか言い様の無い作品でした。戦争映画ですが、この作品の中心にあるのは戦争にいった人残された人の心でありその関係です。
気を抜くことを許さない130分で疲れますがそれほど入り込んでしまう作品だとゆうことです。
そして主演のブラッドリークーパー役作り、演技はアカデミー賞は獲れなかったものの素晴らしいものだと思います。
何より、80歳を過ぎてこんなに素晴らしい作品を産み出すクリント・イーストウッドには脱帽します。ラストの実際の映像から無音のエンドロールは鳥肌が収まりませんでした。
是非、映画館で観てもらいたい。
エンタメと社会性の両立をなす映画
スナイパー戦として思い出すのは、『スターリングヤード』。これもまた敵スナイパーとの戦いが手に汗を握る作品となっているが、この映画でも同様の構造を持っている。
しかし描かれるのはそうしたことよりも、実は戦争によって人間の心が次第に壊れている過程である。PTSDと呼ばれる戦争の後遺症である。
戦争という異常な生活と、それと対比して平和な日常。主人公であるクリスカイルの心が次第に壊れていく様を見せていく過程は非常によくできている。
9.11とイラク戦争は実際は何の関係もないのだが、この映画では、さもその繋がりがあるかのように見えてくるので、イラク戦争賛歌のように見える。だが、クリントイーストウッド自体はイラク戦争を支持していない。どちらにもよらず、戦争に参加した人をありのままに描いただけなのだ。
だから、これを見て何を感じるかが重要だ。僕は、戦争という行為の持つ非人間化、残酷さをえぐり出している怪作だと思った。
ちなみにだが、米軍視点なので、米軍の苦労はクローズアップされるけど、現地のイラク人からしてみれば、勝手にやってきた米軍が勝手にPTSDになっているに過ぎないと思っているのでは?と思ってしまう。
人によって評価が分かれそう
いろいろと考えさせられた映画でした。
主人公は典型的な南部出身のアメリカ人カウボーイ。
家族を祖国を同胞を守るために、男は銃を持って戦うべしという強い信念の持ち主。
「祖国が攻撃された」「イラクで同胞がテロリストの仲間に殺されている」と、これは単純な主人公の正義。
しかしそのテロリストにも家族や仲間がいて、自分の正義を貫こうと戦っている。
そしてアメリカ軍とテロリストの間に挟まれて苦しむ、イラクの無辜の人民たち。
一見、「強いアメリカの象徴としての主人公」を前面に押し出した祖国バンザイ映画にも見えます。
しかし、英雄と讃えられた強い主人公ですら、戦争で心を壊され苦しみます。単なるアメリカバンザイ映画なら主人公の苦しむ姿の描写はいらないでしょう。そしてその主人公は退役後、同じように苦しむ退役軍人の手助けをし、ついには...
「硫黄等からの手紙」で日米の軍人たちを敬意を表した監督が、実在した人物に光を当ててイラク戦争を描いた意図をいろいろと考えました。そして今もまだ考えています。
劇場で観るべき作品
ある米軍兵士の心の葛藤を二時間におさめた素晴らしい作品。冒頭のエピソードもきいているが、ラストに至るまで目が離せない。現実の戦争が現場だし、彼自身が懸賞金をかけられているスナイパーだからでもある。暗闇、土煙、スコープの中など映像化しにくい場面をうまく繋いでいる。無言のエンディングはイーストウッドのアイディアなのか?
守りたいから壊れてしまった
弱きを助け強きを挫くため、己は圧倒的に強くあれ――
そんな父の教えを誇りとして胸に刻んできた男。
テロ報道で怒りに震え、「地上最高の祖国は俺が守る」と宣言した男。
160人以上を殺して何を感じるかと問われ、にべもなくこう答えた男。
「俺は蛮人どもから仲間を守っただけだ。 神の前で説明できる。」
好む好まざるはさておき、クリス・カイルは生粋の愛国者だ。
彼は父が愛した自由の国アメリカの正義を微塵も疑わない。
そしてその祖国を脅かし、同胞を殺す者を誰一人として許さない。
己の正当性を微塵も疑わない、旧(ふる)いアメリカ的正義の体現。
だから『アメリカン』・スナイパー。
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イーストウッド監督のとてつもない所は、
そんな共感するなんて土台無理な男の行動や
価値観を観客にすんなりと理解させられる点だ。
彼の生い立ちから最初のイラク派遣に至るまでを
流れるようなテンポで繋いでみせた手腕はさりげないが驚異的。
彼が何に誇りを抱き、何に愛を感じ、何を憎悪したか、
その感情の機微がするりと観客の心に流れ込んでくる。
だが“理解”と“共感”は異なる。
イーストウッド監督は事象と主人公の心の流れを丹念に
追ってはいるが、彼を単なる英雄として描いてはいない。
英雄に仕立てたければ、ペットの犬を殺しかけるシーンや、
死んだ戦友に対して「臆病風に吹かれたから奴は死んだ」と
言い放つシーンなど削ってしまえばいいのだから。
この主人公は確かに多くのアメリカ兵を救った英雄だが
(アメリカ国民にとって彼は殺人者ではなく守護者だろう)、
同時にその人間性は恐ろしく狂ってしまっている。
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だが彼が狂気に陥るまでのプロセスは、
よくある戦争映画の主人公とはやや異なっている。
大抵の戦争映画で兵士を狂気に追い込むのは、
一瞬で命を失うかもしれないという極限の緊張感、
非人間的な残虐行為の数々、愛する仲間たちの死、
自分の信じていた正義の崩壊。
だが、この主人公の場合は信じがたいほどにタフなのだ。
国の為に命を捧げる覚悟が、彼には本当にできている。
しかも仲間に対しても同レベルの覚悟を求めている。
残虐行為への耐性、恐怖への耐性、戦闘意欲も極めて高い。
女子どもを殺した時・殺し掛けた時はさすがに動揺を見せたものの、
それでも彼は敵を『野蛮人』と呼ぶ事を最後までやめなかった。
何故なら、この戦争が正義の為だと固く信じているから。正義の為なら、
己の苦痛や苦悩など当然支払うべき代償という覚悟があるから。
だがそんな強靭な精神の持ち主でも、いや、だからこそ、彼は壊れてしまった。
彼を狂人たらしめたのはその強すぎる義務感だ。
自分の力不足で仲間を殺されたという自責の念。
仲間を殺した宿敵への激しい復讐心。
すなわち『アメリカン』を守ることへの誇りと責任。
それが彼を戦場へと駆り立てる。
彼の目を、耳を、心を、戦場に置き去りにさせる。
それに耐え続ける妻の憐れさ。
戦場へ戻ることを引き止めようとして最後通告を突きつけても、
自分を犠牲にする事を覚悟している彼は少しも揺るがない。
病院前の電話で泣き崩れるシーンなど悪夢だ。
自分の愛する人が電話越しに殺され掛けているのに、
警察にも誰にも助けを求められない。
ただ戸惑い泣き崩れる事しかできない彼女の
無力感がひしひしと伝わる、見事なシーンだった。
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総じて素晴らしい作品だが、不満点はある。
本作はミリタリーアクションとしての出来も高いが、
作品の性質上、“エンタメ”という言葉が浮かばない程度の
ドライな演出でも良かった気がしている。
まあこちらは些細な不満。
だが、最大の不満点は、
主人公が家族に笑顔で接する事ができるようになった経緯。
つまり、彼がどうやってPTSDを改善できたのか?という経緯だ。
恐らくは退役軍人たちのリハビリに専念することで、
仲間たちを救えなかったという罪悪感が
新たな使命感に取って代わったのかもしれない。
あるいは日常/戦場という極端過ぎる環境のギャップを
退役軍人というバッファ(緩衝材)で埋める事で、
日常を少しずつ受け入れることができたのかもしれない。
そう察する事はできる。察する事はできるのだが、
冒頭から終盤までクリスの心の流れを繊細に描いてきた本作なのに、
この終盤の流れだけが明らかに性急だ。
何か意図があっての事かもしれないが、上映時間を
延ばしてでもその部分は丁寧に描いてほしかった。
『画竜点睛を欠く』と言うが、僕の感想はまさにそれ。
それさえあれば、本当に見事な竜の画だったのに。
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だがやはり並大抵の映画ではない。
狂気の形は多少違えど、
戦場で狂気に駆られない人間など存在しないのだろうか。
そしてその狂気から完全に逃げきる術も無いのだろうか。
最後の暗転後に映し出される彼の結末。
あまりにもあっけなく、あまりにも皮肉なあのエピローグ。
彼の価値観には最後まで同意できなかったし、あれだけの
命を奪った人間であれば当然の報いだったのかもしれない。
だがそれでも、唖然とした後にこみ上げてきた感情は、
ひとりの人間が死んでしまったという悲しみだった。
愛するものを精一杯守るという意志の強さにおいて、
彼を蔑むなんて事はできないじゃないか。
こんな悲しい死がいったい何十万積み重なれば争いは終わるのか。
終わりなんて無いのだろうか。
一言、むごい。
<2015.02.21鑑賞>
中〜途半端やなあ
ラストで主人公の最期を映像化しなかったのは、遺族を慮ったからだろうか。あるいは見識か。戦争によるPTSDがそうさせたというオチはお気に召さなかったのかな。しかしどうも消化不良だ。
スーパーヒーローだから美しく、というのもわかるが、やはり食い足りない。それこそイーストウッド映画の一貫した特徴なんだが。つまり中途半端さが。
凄い映画!
クリス・カイル(主人公)は正義なのか悪なのか、彼の人生は幸せだったのか不幸だったのか。
衝撃のラストは業(カルマ)なのだろうか。とかいろいろ考えてしまった。
だが、ただ重いだけの映画ではない。不謹慎かもしれないが、市街地戦やスナイパー対決など、むちゃくちゃ面白いし、かっこいい。
「ハートロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」「ローン・サバイバー」、この3本も素晴らしい戦争映画だが、これらを凌駕していると思う。
無題
反戦でもなく、アメリカナイズって感じもない、
戦争の中身をえぐり出したかのような映画。
見終わった後の疲労感、頭の中に映像しか残らない。
どんなに訓練を受けたって人間、マシーンにはなれない。同じ人が人を傷つけあうのに、メディアがフォーカスするのは人でなく、軍の戦況と結果。
生き延びて帰ってきても戦争は終われない。
心的外傷後ストレス障害。
まさかの無音のエンドロールに、
映画の感想も、考える事もできなかった。
一言に、重たい映画でした。
どこに正義がある?
なんとなく「TVCMやってたし・・・」あまり考えもせず観ました。
結果、落ち込み~ました。
作品自体は良く作ってあると思いますが、テーマが重い。
実は、少し前にある方からISについての講演を聴いていたので、映画ではアメリカの正義の押し売りが目に付いて、気分は落ち込みました。
ここで、政治的な話や、宗教の話をしても仕方ないのですが、映画としては、アメリカ寄りに見せながら、結果、「誰も幸せじゃないよね。」的なエンディング。名作であることは確かかな。
一つ、作りの点ではダメ出し。
クリスの長女が生まれて、家に連れて帰って夫婦で話しながら部屋で抱いているシーン。
完全にドールってわかっちゃうので、興ざめです。
正直「ここケチるか~」って突っ込みいれたくなりました。
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