「皮肉な報復。」アメリカン・スナイパー ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
皮肉な報復。
試写会にて鑑賞。
まだジャージー・ボーイズの感動を新たにしている段階で、この作品。
イーストウッド卿の振り幅の広さに感服するが、演出はいつも通りの
淡々姿勢でラストまでを貫く。原作はC・カイル氏の自叙伝で、彼は
シールズ所属の狙撃手でイラク戦争に4回派遣された伝説の男である。
公式記録でも160人を射殺、その中には敵の女性子供も含まれている。
仲間から伝説と呼ばれ、敵から悪魔と呼ばれた男。そんな彼の半生を
じっくりと丹念に炙り出していく。主演のB・クーパーは彼に惚れこみ
自身で映画化権を獲得、製作を進める渦中で悲劇的な事件は起こった。
そのラストを観終えて思うのは、なんと皮肉な運命だろう…なのだが、
PTSDに蝕まれていくその爪痕の深さが突き刺さる。戦場に赴いた
彼らが抱える最大の難問であり、平和な日常に戻ろうと癒えはしない。
彼の任務(狙撃手という仕事)に於いて、
他者を守る。とはいわゆる敵とされる人間を容赦なく殺すことである。
彼の口から出る「報復」「蛮人どもめ」という言葉はさらなる同情を拒む。
心理スリラーともとれるその過激さに私の感情は寄り添えなかった。
彼のどんな功績もそれが正常行為だと思えず、イラク戦争に懐疑的な
家族や同僚達の率直な意見の方が事実を述べていると感じたのである。
「生きて家に帰りたい。もう嫌だこんなところは。狂っている。」
彼はその後NPO団体を設立、帰還兵の社会復帰支援活動に取り組む。
ここからが功績となって欲しかった願いがやり場のない悲嘆に暮れる。
(監督が無音のエンドロールで伝えるのは考えてみてくれってことかな)