「英雄の裏側」アメリカン・スナイパー MizuKiさんの映画レビュー(感想・評価)
英雄の裏側
2003年からズルズルと約7年間続いたイラク戦争。私は当時小学生だったので朧げではありますが、9.11のことも、その後の出兵のことも、リアルタイムでニュース報道されていたのを覚えています。だから、作中に描き出された世界が「現実」だったということが強く感じられる。
印象的だったのは、兄弟のように親しかった仲間が撃たれてから、クリスの表情が変化したところです。はじめは、敵とはいえ人を撃つことにためらいを感じとまどっていた。しかし戦友を失ってから、彼は仇を討つために迷いなく引き鉄をひくようになります。復讐はあらたな復讐の芽を生み、敵兵を斃し続けるその行為は、確実にクリスの心を蝕んでいくのです。
「狙撃手」は一人に狙いを定めて一発で仕留める。引き鉄をひけば、必ず一つの命が奪われる。その手には人の死にゆく感覚が強く残る、酷な仕事だと感じました。
もうひとつ心に残ったシーンは、心に傷を負って米国に戻ってきたクリスに、脚を失って退役した元部下が「あなたは英雄です」とお礼を言う場面です。
クリスの狙撃によって命を救われた多くの米国兵にとって、彼は英雄なのです。祖国のため、戦友の敵討ちのためとはいえ、自らの手を汚した罪悪感に苛まれるクリスにとって、この言葉は救いであり、再起へのきっかけだったのではないでしょうか。
「アメリカン・スナイパー」には、”イラク戦争の英雄”が一人の兵士として、また同時に一人の父親としての葛藤する姿、そして戦争を通じて失ったものが描かれています。イーストウッド監督は反戦で知られていますが、この映画は戦争に対し賛成も反対もせず、事実を伝え、観る者にどう思うか問いかけているように感じました。