劇場公開日 2015年4月4日

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「ゲイと一緒に闘えますか?」パレードへようこそ ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ゲイと一緒に闘えますか?

2015年6月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

知的

幸せ

実を言うと、イメルダ・スタウントンが出演している、というだけで、観に行った作品です。この何の変哲もないおばさん(失礼)が主演した「ヴェラ・ドレイク」(監督マイク・リー)という作品を見て、僕はノックアウトされたのです。人懐っこくて世話焼き、親切を絵に描いたようなご近所のおばちゃん。その人が、こっそりと望まれない命の処分をやっていたとは……。
ちなみにこの作品、2004年のヴェネチア国際映画祭、金獅子賞に輝いております。
そのイメルダ・スタウントンが出演する本作。意外にも彼女の出番は少なかったですね。ちょっとがっくり。
物語の舞台はサッチャー政権下、1984年のイギリス。この「鉄の女」と呼ばれた首相がどのような政策を行ったのかについて、やや予習の必要ありと感じました。
ロンドンのゲイやレズが集まる団体が、炭鉱町である、ウェールズ地方の労働組合と団結し、偏見や差別、そしてサッチャー政権と闘うというストーリーです。
そもそも、なぜ、ゲイやレズの団体が炭鉱町と共闘しようと思い立ったのか?
その辺りが案外あっさり描かれておりまして、もう少し、強烈な動機の提示が欲しかった気がします。これは事実に基づいたお話なのだけれど、意外に説得力に乏しい気がしますね。やはり、労働運動はなるべく多くの人を巻き込む方が効果的。だけど、その支援を申し出てくれたのが、まさか「同性愛者の団体」であったとは? これには労組側も頭を抱えるわけです。果たして、支援を受け入れていいものやら? こうした支援される側、炭鉱町労組の人たちの戸惑い、混乱ぶりはよく描けていたように思います。
ところで、イギリスの映画を観るときに気をつけておいた方がいいのが、みなさんご承知のとおり「お郷」の問題。これはイングランドのお話なのか? それともスコットランドなのか? はたまたウェールズ地方なのか? 僕たち日本人は「イギリス映画」と一括りにしますが、イギリスとは、それぞれのお郷が集まった「連合王国」なわけですね。本作の舞台でもあるウェールズ地方の人たちの発音をよく聞くと、おもいっきり「訛っている」ことに気付かされます。そういう違いを見つけながら鑑賞するのも、洋画の楽しみ方の一つかと思います。
さて、同性愛者への偏見を持たないで付き合えるか? 色メガネで見ない、と断言できるか?と自分に問えば、僕もやっぱり100%偏見がないわけじゃない。ちょっと、身構えちゃうわけですね。ましてや、親の立場から見れば、手塩にかけて育てた自分の息子が、”実はゲイだった”となれば、ご近所や世間に対して一家の面目丸つぶれになりかねない。本作で同性愛者団体の一番若いメンバー、ジョー(ジョージ・マッケイ)がまさにその典型。優等生ですくすく育ち、思春期にも、親に反抗らしいことをしたことがありません。その彼が、まさか”ゲイ”の団体で活動していたなんて。ジョーにしてみれば、まさにこの”ゲイ”への偏見と闘うことこそ、大人への階段をひとつ上る行動だったのでしょう。しかし、その未来には「普通の」「ストレート」の人が上るより、はるかに厳しい階段が用意されていることでしょう。本作は主にこの若いジョーの成長に寄り添うような視点が多用されております。イメルダ・スタウントンという、あまりのビッグネームに当初は目を誤魔化されてしまいそうですが、若いジョーの成長と自立という面から、本作を鑑賞すると、また違った評価ができそうです。

ユキト@アマミヤ