「友達になる瞬間って、いいなぁっつって」花とアリス殺人事件 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
友達になる瞬間って、いいなぁっつって
2004年に公開された岩井俊二監督の青春映画の前日譚。
花とアリスの出会いの物語。
前作は非常に好きな作品。
鈴木杏と蒼井優のナチュラルなやり取りに魅せられ、二人の友情や三角関係、少女特有の意地悪さなどをコミカルかつ瑞々しく描き、青春映画としても秀作。
特にクライマックスの蒼井優のバレエは神シーンであった。
花もアリスも鈴木杏と蒼井優以外絶対考えられない。
が、“前日譚”。10年も経ち、さすがに二人が演じるのに無理はあるものの、若い女優にバトンタッチなんてNG!
そこで取ったアニメーションに思わず唸った。
岩井俊二にとっても初となる長編アニメーション。
声を前撮りし、実写を基にした手法は、まるで実写作品を見ているような滑らかさ。
バレエの動きはこの手法だからこそで、従来のアニメではあそこまで表現出来なかっただろう。
背景も緻密で、映像美も出色だった前作の世界観がそのまま。
声だけでも鈴木杏と蒼井優のナチュラルなやり取りは変わらない。
相田翔子、平泉成、木村多江らは同役で、宮本先輩の郭智博は別役で続投。
新参加では、「幕が上がる」「ソロモンの偽証」に続き黒木華がここでも先生役。
前作を彷彿させるシーンが幾つか。
アリスが父親と会うシーンと橋の上で出る電話、アリスの「いやらしい」の台詞はちゃんと“平泉成”に言い、花とアリスがお互いのセーラー服姿を見せ合って「似合わね~」などなど。
前作のファンならニンマリする事必至。
小ネタやオマージュにも溢れ、特に印象的だったシーンがあった。
ひょんな事からアリスが行動を共にする老人。
しょぼくれた姿格好、飲食店での明暗対比やブランコ…。調べてみたら名前まで!
これは黒澤明の「生きる」であった。
タイトルにもなっている謎の“殺人事件”。
まさかの学園ミステリー展開に!?…な訳なく、これは見れば分かる洒落たタイトル。
オカルトチックなネタや黒井ミサ風の女の子が出てきたりと悪戯的な遊び心に富んでいる。
この“殺人事件”を究明する事になった花とアリス。
小さな冒険と、その過程で縮まっていく二人の距離。
二人が友達になるのが分かっているから初対面でもまるで夫婦漫才のように妙に馬が合うなぁと思いつつ、微笑ましい。
二人だけの経験をして、秘密を打ち明けて、他人と他人がこうやって友達になる瞬間。
今作も前作も“少女の時”を描いているのは充分分かるのだが…
二人のその後、“今”を描いた続編をやはり期待してしまう。