「【大自然の美の中で行われた愚かしくも恐ろしい”実験”に対して、台詞無くも強烈な怒りのメッセージを示した作品。美しき少女の序盤は柔らかな表情から後半怒りを湛えた表情と瞳が印象的な作品でもある。】」草原の実験 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【大自然の美の中で行われた愚かしくも恐ろしい”実験”に対して、台詞無くも強烈な怒りのメッセージを示した作品。美しき少女の序盤は柔らかな表情から後半怒りを湛えた表情と瞳が印象的な作品でもある。】
ー 冒頭、アジア系の父とロシア系の血が混ざっていると思われる美しい娘(エレーナ・アン)が住む大草原に沈みゆく夕日が映し出される。
その後も、乾き切った草原の中の用水路に水が流れて来るシーンが描かれ、この映画は大草原に生きる親子の映画かと思う。
が、その後、少女が大切にしていると思われる押し葉を貼り付けたスクラップブックを少女が大切に開くシーンが描かれる。
草原には、葉を纏う木は一本もなく、枯れ木が一本あるだけなのに・・。-
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・そして、少女の父の元に軍人たちがやって来て、ガイガーカウンターで数値を測っている。
このシーンで、この映画の監督のロシア人アレクサンドル・コットがこの映画を台詞無しで製作した意味が、ぼんやりと頭の片隅を過る。
だが、未だ曖昧ではある。
・父は容体が悪くなり、少女に正装をして貰ってから亡くなる。父は、勲章を胸に大地に埋葬される。父は、旧ソ連の核実験に携わっていた事が類推される。
前半の各シーンの意味がやや分かって来る。
・少女の元には、地元のアジア系の少年とロシア系の少年が想いを寄せて来る。だが、少女は最初からロシア系の少年が好きなようだ。父が生きて居た時に、二人で食卓を囲んだ時のロシア系の少年を思い出したかのような、少女の微かな微笑みからそれが分かる。
僅かなる幸せな一時・・。
<だが、ラストシーンの大草原の彼方に立ち上るキノコ雲で全てが氷解する。
この映画は、旧ソ連がカザフスタンで何百回も行った核実験への、強烈な怒りを込めた作品なのだ。
少女と生活を共にするようになった少年がバク転をする湖は、核実験によって出来た人口湖なのだ。
アジア系の少年は爆風の中、怒りの表情で突っ込んで行く。
そして、爆風は全てを吹き飛ばすのである。
その後に夕日が”上り”又、地平線に沈むのである。
今作は、大自然への畏敬を忘れたかのような、愚かしき”実験”に対する強烈な怒りを示した作品なのである。
エレーナ・アンが演じた美しき少女の、序盤は柔らかな表情から、後半怒りを湛えた表情と瞳が印象的な作品でもあるのである。>